■自然の魅力に満ちた沿線
田園風景のひろがる中を走り抜ける北条鉄道北条線。線路沿いを歩いているとサクラ並木もあり、花の季節はさぞやキレイだろうな、という印象を受ける。取材時は4月も下旬だったので花も散っていたが、それでも新緑が目も心もなごませてくれた。
加古川市を中心とする東播州地域は西日本最大規模の大麦の産地でもあり、青々としたムギの穂が素晴らしく美しく、5月下旬から6月ごろには一面が金色に染まるという。秋には黄金色の稲穂が実り、真冬には積雪で銀世界がひろがる。季節ごとに表情を変える沿線風景は、何度でも訪れてみたくなる魅力に満ちあふれているのだ。
田原駅を出て徒歩で法華口駅へ向かう途中も、麦畑に何度も出合った。麦穂が風になびく姿は稲穂とはまた別の風情があり、個人的には初めて見る風景だ。
■三重塔がシンボルの法華口駅
20分ほど歩いて法華口駅に到着。有形文化財に登録されるだけあって、こぢんまりとしたレトロなたたずまいが特徴的だ。
法華口駅の開業は1915年。北条鉄道の前身である播州鉄道が、粟生駅から北条町駅間を開通したと同時に開かれ、現在の駅舎は当時のままの姿を残している。無人駅だが駅舎内には米粉と地元食材を使ったパン工房「モン・ファボリ」があり、観光客の姿も多い。
そして、駅舎の横には、なぜか三重塔が建てられている。
駅名の由来である法華山一乗寺の国宝三重塔を模したもので、高さは3分の1の約7メートル。加西市内の大工の棟梁が、北条鉄道の活性化に役立ててほしい、ということで寄贈されたとか。シンボルにふさわしい、精巧で立派な造りである。