■いざ、巨岩と奇石の瀞八丁へ!

 瀞八丁に漕ぎ出すと、両岸にそそり立つ20〜50mもの岩壁に圧倒される。所々には「獅子岩」「夫婦岩」「墜落岩」などの特徴的な奇石が現れて見所満点。ジェット船からとは目線が違うし、ダイレクトにその迫力を感じられるのはカヤッカーの特権だ。

見飽きることのない迫力ある巨岩の数々

 瀞(深い淵で流れがゆるやかな所を意味)という名の通り、穏やかで危険箇所はない。ただ注意したいのは定期的に行き来する観光ジェット船だ。

 遠巻きにジェット船の姿を確認したら早めに岸に寄ろう。また、ジェット船が作る波にも要注意。不意に横波を食らって横転することもあるので、ジェット船の方を向いて正面から波を受けるようにしよう。

 その際、ジェット船の観光客に手を振ってあげるのがオツな行為だ。観光客も手を振り返してくれるし、時折粋な船頭さんが「プアーン」と汽笛を鳴らしてくれる。わずかな人との交差だが、それがまた旅を少し豊かなものにしてくれる。

瀞峡ならではの光景。自然の中での一期一会

 瀞八丁を抜けると、上陸に最適な川原が多数出てくる。昼飯は、田戸の売店で買った“めはり寿司”だ。

 めはり寿司とはこの地方の郷土料理で、塩漬けした高菜の葉でくるんだおにぎりのこと。名前の由来は「目を見張るほど大きくておいしいから」といわれていて(諸説あり)、その名の通りこれだけでおかずはいらないほど満足度は高い。

地のものをその場所で食べる。川旅の鉄則だ

 再び川の上の人となり、穏やかな旅路は続く。

 清らかな川面にキラキラと反射する陽光。ふとパドルを漕ぐ手を休めると、自分が思いがけないほどの静寂の中にいることに気づく。聞こえるのはサワサワという川の音と鳥の声のみ。

 心地よくなり、ボートの中で横になってゆらゆらとした流れに身を任せる。頭上にはピーヒョロロロと旋回するトンビ。あくびをして、軽く目を閉じる。風が優しく頬を撫でていく。

言葉などいらない。心地よさを味わうのみ

 まだ時間は早かったが、気に入った川原を見つけて上陸。この川は極上の川原の宝庫なので、思い立った時が野営のタイミングだ。

 川旅に魅力はその自由さにある。どこで切り上げようが、どこまでも漕いで行こうが自分次第。自分の感情に正直に、ただただ心地いいのど真ん中を目指していくのが川旅だ。そのためにはやはり単独行が望ましいと僕は思っている。

<後編へ続く>

*掲載情報は著者が訪れた当時のものです。川の状況や交通情報は変わっている場合があります。あらかじめ、ご了承ください。