これは16年前、北海道東部を流れる釧路川を下った川旅の記録だ。当時はろくな装備や技術もなく、悪天候やトラブルに見舞われてボロボロになることも多かったが、旅ってのは若く未熟で失敗が多いほど素敵なものになると思っている。
今回は「川のガイド」というよりも、あくまで「こういう旅の仕方もあるんだな」という視点で読んでもらえたらと思う(特に若い人に)。情報も古いので、実際に行く際は現状を調べてから出掛けることをおすすめしたい。
■寄り道にこそ旅の旨味がある
北海道は、いつの時代も若き旅人にとって憧れの大地だ。
ある程度大人になると、パッと飛行機で行って、パッと観光地を巡って、ズバッと美味いもんを食って、シュパッと帰る。時間だけは有り余っていてお金がなかった若い頃の僕は、「安い&自由!」を合言葉にいろいろと試行錯誤しながら旅の計画を立てていた。
愛知に住んでいた僕は、北海道までの足として飛行機ではなくフェリーを選んだ。しかも値段が高い太平洋側ではなく、新潟発で日本海側から苫小牧港を目指すフェリーをチョイスした。さらに新潟までは高速道路を使わずにオール下道で移動し、マイカーをフェリーに乗せて現地でのレンタカー代を浮かせた。
自宅から釧路川まで、じつに3日間を要した。しかしいきなり目的地に行くことになんの価値も感じてなかった僕にとっては、その道のりすら釧路川の旅の一部だった。
道中、長野の白骨温泉で混浴風呂に興奮し、富山ブラックラーメン食ってそのしょっぱさに衝撃を受け、新潟の能生で500円の激安蟹を堪能しまくり、初フェリー移動にも新鮮な楽しさがあった。苫小牧港上陸後は二風谷ダムに行ってアイヌ民族の無念に想いを馳せ、義経神社に寄っては源義経のモンゴル逃亡説を検証し、野趣あふれまくりの菅野温泉「鹿の湯」も堪能したりした。
広い北海道、苫小牧から釧路川までの長い道のりは「湖ホッピング」に勤しんだ。然別湖で足湯に浸かり、糠平湖でMTBを走らせ、北海道三大秘湖オンネトーや阿寒湖でハイクし、仕上げは濃霧で1mmも姿が見えない霧の摩周湖を堪能した。最後にたどり着いた湖が、釧路川の源流に当たる屈斜路湖(くっしゃろこ)である。
夜は湖と同じ目線で楽しめるコタン温泉露天風呂(無料!)で移動の疲れを癒し、夕飯はたまたま近くにあったアイヌ料理の「丸木舟」へ。そこではアイヌ語で“口笛を吹く魚”という意味がある「パリモモ(和名エゾウグイ)」の刺身を食べた。これがまた、レバ刺しのような弾力で、じつにウマいのである。
土地のものを食べるが僕の川旅の基本なので、こういう風土食との出会いも旅を豊かなものにしてくれる。川旅はひとつの川にピンを立て、その流域や、そこに至るまでの行程の全てを楽しむものだ。飛行機で直接目的地までぶっ飛んで行っていたとしたら、ここまでの体験はできていないだろう。旅の満足度は、潤沢な予算とは直結しないのが面白いところなのである。