日本中の低山を歩きまくっている「低山トラベラー」こと大内征です。ブラボーマウンテン読者のみなさんにとって、登山というと、どういうイメージでしょうか。そんな問いかけから、記念すべき連載の初回を始めたいと思います。
一般に登山と言うと「遠くの高い山に苦労をして登りに行く」というイメージがあるようだ。たしかに、ぼくの日帰り登山の講座に来る人の中にも、その先入観にとらわれて最初の一歩を踏み出せなかったという意見は多い。
しかしそんなイメージが、ここのところずいぶん変化している。ぼくのように“低い山”をメインフィールドに山旅を楽しむ人が増えているし、そもそも山頂に立つことにこだわらない人も意外と多い。たとえば、山小屋の名物料理を食べに行くだけとか、沢歩きに夢中だから谷にしか行かないとか、コケを愛でるとか。楽しみ方は人それぞれ、いい流れがきているようだ。
その昔、六甲の山中で「下山部」を自称するハイカーたちに出会ったことがある。本格的な登山ウェアと装備に身を包んだ彼らは、毎週のようにロープウェイで摩耶山の山頂近くまで上がり、屋根のある大きな休憩所で仲間と待ち合わせて山ごはんを楽しみ、帰りは歩いて下山するのだという。なるほど、それは「下山部」で間違いない……。下りたら下りたで麓の温泉で汗を流し、商店街で風呂上りの一杯をまた楽しむのだとか。
なんだよ、下山部最高かよ! と思ったものだが、こうして地元の山で自然に親しんだり、地域文化を見聞する山半分・街半分くらいの山旅は、実のところめちゃめちゃ楽しいのだ。遠くの高い山に行くことができない時は、ちょっと視点と目的を変えた山旅を計画してみると、意外な発見と気づきに心が躍るだろう。
■点と点が繋がって線になる山の旅
で、ぼくはと言うと、もう何年も日本各地の低山を歩いている。歴史小説の舞台、神話の聖地、絵画のモチーフとなった山などに、自分の足で確かめに出かけるのだ。本で見知った無数の点のような知識が、山に行く度に繋がって線になっていく感覚が面白くなり、自らを「低山トラベラー」と称して歴史物語を辿る登山の魅力を伝えている。
ぼくも最初は“遠くの高い山”からスタートした趣味の登山だったけれど、いつしか人の暮らしが色濃い低山里山が面白くなった。アルプスや八ヶ岳で非日常の絶景を目にした時の感動や、ハードな行程を乗り越えた時の達成感とはまた異なり、低山では文化的な営みに触れたり山の暮らしを感じる機会が多いため、好奇心をくすぐられ、旅心が満たされる。
事前の下調べをしておくと面白さは倍増する。地名山名の由来(たとえば、山から海に嫁ぐ花嫁のウェディングロードが由来の花嫁街道)や、山域に伝わる歴史伝承、名物料理や秘湯と戦国大名との関係性も面白い。土地の名士、景勝地、地酒、伝統工芸、祭りなんかもいい。自分なりの感性と視点でリサーチしたネタを旅の計画に組み込めば、もはや単なる登山ではなくなる。登山と観光がほどよくミックスされた、自分オリジナルのツアーが誕生するのだ。