美しい渓谷の流れは素晴らしい透明度を誇り、アユやアマゴも豊富に泳いでいる。かつてカヌーイストたちの間で聖地とすら言われたその川は、現在進行中のダム建設の影響で姿を変えようとしている。

 今回は、今行っておかないと絶対に後悔するその川の旅の様子と、ダムのこと、そして周辺の旅スポットである郡上八幡の町をご紹介していきたいと思う。

■故・野田知佑さんが愛した川

 2022年3月、作家でカヌーイストの野田知佑さんが逝去された。多くのアウトドアズマンたちに影響を与えた川旅の第一人者で、僕も影響をモロに受けている。

 野田さんが、名著『日本の川を旅する』の中で長良川を旅したとき、1本の美しい支流の話に触れている。そこには「あまりに水が透き通り過ぎていて、川に水がないのかと思った」とか「アマゴを手づかみで獲りまくり、夢のような日々を過ごした」などと書かれており、本を読んだ多くの人が、なんてファンタジーな川なのだろうと胸を焦がした。

 その川の名は、「亀尾島川(きびしまがわ)」という。

 岐阜県の郡上市内を流れる長良川の支流に那比川があり、そのさらに支流にあたるのが亀尾島川だ。古くから魚影の濃い川として知られ、渓流釣りや鮎釣りで有名な川である。ゆえに川を下る際は、できるだけ釣期を避けて下る方がいい。僕は鮎釣り解禁前の5月、渓谷の新緑が美しい時期に下り、那比川を経て長良川に合流する約4kmを旅している。

■渓谷美と透明度に酔いしれる

 那比川合流点の1.5km上流に大きな堰堤があり、旅はその直下から始まる。スタート直後はまるで「ミニ高千穂峡」といった趣で、両サイドは切り立った断崖だ。結構な水深だが、透明度が高過ぎるので川底まで丸見えの状態。まるでビルの2階くらいの高さを浮遊しているような気分で、若干恐怖を覚えるほどの透明度だ。

深い渓谷が冒険心を刺激する

 そのような場所に光が差し込むと、川はキラキラとエメラルド色に輝く。途中には清涼感あふれる二段の滝があったり、作られたプールのようなプライベート清流空間が現れたりと、のっけから見どころ満載だ。流れも穏やかなので、正直この区間を行って戻ってくるだけでも満足度は高く、かつて野田さんが「夢のような川」と書いた一端を垣間見ることができる、まさに聖地巡礼の旅路の始まりである。

イタリアの青の洞窟のような「キビシマの緑の洞窟」