北海道東部を流れるカヌーイストたち憧れの川、釧路川。原生林の中をいくワイルドな源流域、開発の現実を見せつけられる中流域、そして雄大な湿原が広がる下流域。トラブルも多く、楽しいことばかりじゃない旅も、今となっては最高の思い出だ。
未熟な青年による約80km、1泊2日の川旅の記録です。
■雨中の源流域をゆく
水源である屈斜路湖の南端付近に、釧路川への入り口である眺湖橋がある。
橋の近くには屈斜路湖・釧路川カヌーポートがあり、駐車スペースもあるため、ここから川下りをスタートする人が多い。僕は素直にここからスタートせず、屈斜路湖内にある和琴半島の崖の下にあるオヤコツ地獄にて、ワイルド温泉を堪能してから釧路川に侵入した。(前編参照)
家を出て4日目にして、ようやくたどり着いた憧れの釧路川源流域。水源である屈斜路湖の約8割が湧き水でできているため、この源流域の水は非常に透明度が高く、古くからカヌーイスト憧れの地として知られている。
しかしその憧れの地に、激しい土砂降りに見舞われた状態で突入していったため、正直この時の記憶はほとんど残っていない……。
ちなみに、この区間内には「鏡の間」と呼ばれる映えスポットがあった。らしい。そこは川底から湧き水が出てきており、水は果てしなく透明で水面は鏡のようだ……という話だったが、雨が肝心の鏡の水面を容赦なく叩き付けており、よく分からなかった。
雨の中をヒイヒイいいながら進んでいくと、「土壁」と呼ばれる難所に差し掛かった。ここは水流が土の壁に向かって流れていて、その先には厄介な倒木が乱立するという最悪な場所だ。過去にはここで多くの事故が起き、倒木に巻き込まれて残置されたカヌーが何度も目撃されて「カヌーの墓場」とも呼ばれていた。
今ではだいぶ人の手が入って通りやすくなったようだが、行かれる方は十分注意していこう。
やがて雨が上がったはいいが、それを待っていたかのようにアブが1匹、2匹と僕の目や鼻や耳の周りを飛び始め、いつの間にかそれが数十匹の大群となって執拗にストーキングを開始。僕は度々奇声を発し、パドルを振り回し、ほうほうの体で摩周大橋カヌーポートへ上陸した。
こうして長年憧れ続けた釧路川源流部は、雨とアブの記憶しかないというまさかな結果になったのである