僕にとって川下りは目的ではなく、気持ちいい川原にいくための、ただの手段だったりする。だから川を下るのは少ない時間でも構わないし、もしいい川原が独り占めできるなら、漕ぐ必要さえないと思っている。川旅の中で僕が最も好きな時間。それは極上の川原で過ごす一人の時間なのである。
■川旅のハイライト! 極上の川原で野営をする
この日選んだ野営地は、川から1段上がって風上に対し盛り土的になっている場所。しかも流木が豊富。このような完璧な野営地がそこかしこに点在しているのも、この川の魅力のひとつだ。
野営地が決まったら、なによりもまず真っ先にすることがある。それは川でビール冷やすこと! これをしなきゃ何も始まらない。
じっくり時間をかけてタープを張って寝床を作っていく。最近のテントやタープは”設営簡単”が謳い文句のものが多いが、こと川原時間を楽しむには“不便で時間がかかって頭を使うもの”であればあるほどいい。
設営が済んだら流木集めだ。次第に日が暮れてきて、ひぐらしがカナカナカナと鳴き始める。焚き火を熾し、ゆっくりと時間をかけて米を炊く。出来上がるまで、川で冷やしておいたビールをグビリ。遠くで魚が跳ねる音が聞こえる。それ以外は何の音も聞こえない。僕だけの世界。
お腹も満たされ、静かに焚き火と向き合う時間が始まる。ウイスキーをちびちび飲みながら、飽きることなく炎のゆらめきを見つめる。
もちろん、ここではバーボンかウイスキーがベストだ。もし今ここで蓮舫さんが出てきて「チューハイじゃダメなんですか?」なんて聞いてきた日にはグーパンチだ。誰が何といおうと、ここは黙って眉間にしわを寄せながらウイスキーなのである!
夜の闇が深くなり、やがて上下感覚もおぼろげになりそうな真っ黒な世界となる。怖さなんてない。あるのは深い深い開放感と自由のみ。対人が無いと己がむき出しになり、やがて、それすら闇に溶けて個が曖昧になる。時間の感覚がなくなり、思考回路もどんどんシンプルになっていく。
気持ちよさのまま横になる。頭上には今にも降ってきそうな満天の星空が広がっている。ただそこに在る、という幸福。焚き火がパチッと爆ぜる。とてもいい夜だ。