■翌日の天気を考慮して、2日目に奥穂高岳往復
ザイテングラートを登りきり、穂高岳山荘に着いたのは13時ごろ。計画では、今日はここで行動を終了し、奥穂高岳には3日目に登るつもりだった。けれども、翌日の天候は曇りで、強い寒気が入ってくるとの予報だった。
「時間はまだあるし、天気が安定している今日のうちに登ってしまった方がいいだろう」同行者とそう相談し、山頂をめざすことにした。
山荘前のテラスの端から、クサリやハシゴが架かった急峻な岩場に取り付く。高度感が半端ない。稜線に出ると、石屑のザクザクした道を登っていく。涸沢側にいるときには気づかなかったが、稜線上には強い北西風が吹きつけており、とにかく寒い。顔の筋肉があっという間にかじかんでいく。すぐそこまで冬が近づいていることを感じさせてくれる。
振り返れば、穂高の鋭い岩稜が北へと延び、その先には槍ヶ岳が見えた。ほかに登山者はおらず、北アルプスの絶景をひとり占めしている気分になる。だが、足を止めて、のんびりと展望を楽しむには、風が冷たすぎる。そのまま先を急ぎ、やがて標高3,190mの奥穂高岳の山頂に到着する。
山頂のケルンの上には祠が祀られている。山麓の穂高神社の嶺宮だ。お参りをしたあと、方位盤が埋めこまれている方のケルンの上に立ち、周囲を見渡す。稜線の先にジャンダルムが大きくそびえ、その右側には笠ヶ岳が見える。奥穂高岳から涸沢岳、北穂高岳を経て、槍ヶ岳へと続く頂上稜線もはっきりと望めた。さらにその向こうには奥黒部や裏銀座の山々も広がっている。寒さに耐えながら、360度の大展望を堪能した。
穂高岳山荘に泊まった翌日は、朝から曇り空だった。夜のうちに少し雪が降ったのか、テラスの石畳や石垣の上にはうっすらと雪がのっている。今日は下るだけなので、ゆっくりと準備をして、陽の光がしっかりと山の斜面に当たり、少し暖かくなるのを待ってから出発した。
晩秋の山は、降雪や寒さなど天候の見極めが難しい。前日まで晴れていても、寒気が入れば一晩で稜線が雪に覆われることもある。だからこそ、山中での行動には慎重な判断が求められ、気を遣うことも多い。それでも山で味わう静けさは、この時期だからこその魅力だ。