秋も深まり、一日一日冬へと向かっていきます。温かい温泉が恋しい季節でもありますね。

 今季一番の冷え込みで早朝は氷点下となった日、八ヶ岳・硫黄岳の直下に湧く、標高2,150m日本最高所野天風呂『雲上の湯』と、通年営業日本最高所温泉内湯『こけももの湯』を訪ねて晩秋の森を歩いてきました。

■晩秋の光に照らされた美しい森歩き

森のなかへ。カラマツの黄葉で森はウォームカラーに包まれています
人の気配に逃げようとしたシカが、途中で足を止めてこちらを見ていました

 稲子湯から本沢温泉(ほんざわおんせん)を目指して歩き始めました。幾度も歩いた場所ではありますが、ずいぶんと久しぶりに訪れたので、懐かしさと新鮮さが入り混じる不思議な感覚です。

 森の広葉樹はすっかり葉を落とし、すっきりした印象です。カラマツが黄金色に輝き、明るさに満ちています。林道と交差しながら登山道を辿っていきます。晩秋の低い光は陰影鋭く、それでいて優しく景色を浮かび上がらせていました。

木々は葉を落とし、晩秋の低い光が森を照らします
ミドリ池越しに望む天狗岳。まるで一服の絵画のよう

 やや急な斜面を登り切った先「しらびそ小屋」の屋根が見えてきました。ときおり風がさざ波を立てるものの、小屋の前で静かに水を湛えた「ミドリ池」。その名の通り、周囲の緑を映した水面が穏やかな表情で迎えてくれます。その向こうには天狗岳がそそり立ち、まるで一服の絵画のよう。

 ここからしばらくは平らを進みます。苔がいっそう色濃くなった感じがしました。シラビソなどの針葉樹に混ざって葉を落としたダケカンバの幹が秋の情緒を感じさせ、樹間から見上げると、どこまでも澄んだ青空が心に沁みます。

日陰の細い流れに触れた枝が凍っていました

 日陰では、森から染み出した細い流れが凍っており、霜柱が足元に散在しています。そこからもうひと登り。最短ルートである「本沢温泉入口」から続く道へ合流しました。

 少し歩くと、レトロな雰囲気漂う木造の小屋「本沢温泉」へ到着です。ここまで3時間半ほどでした。

■標高2,150m 日本最高所の野天風呂に浸かる! 本沢温泉

本沢温泉の“野天風呂”。野趣溢れるダイナミックな景色のただ中での入浴が気持ちいい

 さて、チェックインを済ませたら、今回の一番の目的である野天風呂「雲上の湯」へ向かいます。10分ほど登山道を進んだ先の分岐からザレた斜面に出ると、湯川の最上流部、左岸に木枠に囲まれた湯船が見えました。標高2,150m、日本最高所にある野天の温泉です。

 白濁した硫黄塩泉は入った瞬間は少し熱いものの、すぐに程よく染み渡り、体と心の緊張をほぐしてくれます。少し深めの湯船。底の砂利が足裏に心地いい。

 滔々とした川の流れ。硫黄岳の稜線から差し込む光に照らされたカラマツが黄金色に輝いています。野趣溢れるダイナミックな景色のただ中での入浴です。最初は服を脱ぐのに少し抵抗がありますが、いったん入ってしまえば開放感がクセになりそうでした。

 実は当初、硫黄岳までの登山を計画していたのですが、天気を鑑みて本沢温泉までにしました。晴れてこそいるもの、ときおり強く吹き抜ける風、大きく揺れる木々に寒風吹き荒ぶ稜線の様子は想像するに難くないでしょう。少々残念ではあるものの、早い時間からのんびりと温泉三昧に耽るのも悪くありません。心地いいほてりを感じつつ宿へと戻りました。

■レトロな山小屋、風情あるかけ流しの内湯にたっぷり浸かる

夕闇迫る頃、本沢温泉の外観は情緒たっぷりに
内湯のこけももの湯は、炭酸水素塩泉の白褐色の湯
名物のおでん。温かい湯気に誘われて山談義に花が咲きます

 本沢温泉の館内には内風呂「こけももの湯」もあります。野天風呂とは泉質がまったく違い、こちらもかけ流しです。炭酸水素塩泉の白褐色の湯に身を浸しているととろけてしまいそう。長い年月湯に晒された浴室は落ち着いた風情があり、滞在中何度も訪れてしまいました。

 夕食の時間になって食堂に行くとテーブルにはすでに食事が用意されおり、その中央でおでんが入った土鍋が湯気を上げています。宿泊者同士取り分けているうちに、山の話にも花が咲き、和気藹々としたひとときを楽しめました。これもまた山小屋の醍醐味でしょう。

 翌日は荒天が予報されていましたが、朝になって山を見上げると一層ひどくなっているようでした。名残惜しいですが、支度をして登ってきたルートを辿って下山の途につきました。

カラマツの繊細な落ち葉で絨毯のようになった山道

 風に揺れる木々に少し不安を感じつつも、晩秋の侘び寂びに感じ入ります。振り返ると山の頂は白く雲に覆われており、登山道は昨日よりさらに散り落ちたカラマツで絨毯のよう。冬の足音が聞こえてきています。

八ヶ岳 湯元『本沢温泉』