■僕が単独行に至るまで

 もともと僕は、小さい頃に川で遊んだが経験が浅く、泳ぐのも得意じゃない。怖がりで激流には興味がなく、穏やかな清流に癒されながら川の流域を旅したいだけ・・・という思いが川旅のベースになっている。こんな感じで、まずは自分の経験値や価値観を一旦整理することからスタートさせた。

 そのうえで、最初は旅先の四万十川で川下りツアーに参加し、川下りや川の楽しさを存分に味わった。いい川で楽しい経験をするのは何物にも替えがたいことだ。もちろん楽しいだけじゃなく、実際に沈(転覆)したり、川に流されたりして、水流の怖さやPFD(ライフジャケット)の大切さを身をもって体感させてもらった。

今も昔も、パドラーにとっては憧れの四万十川

 川の魅力にハマった僕は、地元に近い長良川で何度かカヤックスクールに通った。そこで基本的な技術や川の仕組みを学んだ・・・と書くと、こいつ真面目な奴だな〜と思われるかもだけど、僕はアホなので、今でも覚えてるのは「沈してもパニックになるな」!ってことと、「流されたら下流に足が来るようにしてラッコのポーズ!」ってことくらい。でも、それはすごく大事なことだった。

 そこからは現場での経験がほとんどだ。ドラクエでも最初はスライムと戦って経験値を積むように、まずは仲間と一緒に流れのない超静水からチャレンジした。そこで毎回、技術的なことや道具の使い方などの課題を発見しては、人に聞いたり本で調べたりして少しずつ解決していった。川下り中に起こり得るであろう危険や、川にある危険な人工物(テトラポッドなど)のことも徹底的に頭の中に叩き込んだ。川の流れの規則性や、岩の配置によって変わる流れも注意深く観察した。川下りにはそれくらいの臆病さが必要だと思う。だって死にたくないからね。

最近の事故事例は川の中の人工物がらみのものが多い

 やがて、仲間と一緒に穏やかで危険箇所のない川から川下りを始めた。もちろん、事前にその川の行程については調べまくってから行った。危険箇所だけじゃなく、鮎釣り師や仕掛け漁(ヤナなど)の状況も調べて、余計なトラブルにならないようにも意識した。だって楽しく下りたいからね。

 最初はちょっとした流れの川でも心から楽しかった。ネームバリューに惹かれて、いきなりメジャーな川に行く必要なんてなかった。そのうちに、川をどんなふうに事前に調べたらいいか、どんな危険があるか、流れの中で船をどう動かしたらいいか、沈した時にどうやってセルフレスキューできるか、などを頭と体で理解できてから、ようやく初めて1人で川を下るようになった。これが僕の踏んできた“段階”だ。

 これはあくまで僕の事例なので、参考にしてもらう程度で構わないが、全体的にいえることは「臆病であることが安全確保と上達への近道」だということだ。そしてこのような過程の中で、自分の中で“マイルール”を徹底させた。そうすることで、安全に単独での川旅を続けてこられた。

 そのあたりのことは、次回後編でお送りしたいと思う。