■イワシの群れに総攻撃で大混乱! もうなにがなんだか……
しばらく観察していると、1羽のオオミズナギドリが入江深くまで入り込んできました。いつもは遠い沖合を飛んでいるので、こんな岸近くまでやって来るのはレアなことです。
と、突然水面が激しく揺れ、小さい魚が飛び跳ね出しました。おそらくイワシでしょう。オオミズナギドリがものすごい形相で捕まえにかかりました。見事な早ワザでゲットです。イワシの群れは、もう大パニック。付近の海面からたくさんのイワシが跳ねる事態となりました。が、それが、大変な事態を引き起こすとはイワシ自身も思っていなかったことでしょう。イワシの大群がいるとわかった途端、付近を飛んでいたオオミズナギドリが一気にその場に集まってきました。イワシたちが水面で激しく慌てふためいていることが、銃撃されたかのようにしぶきを上げる水面から伝わってきます。
もしかしたら、イワシは、他の魚に追われて飛び出したのかもしれません。だとするならば、上からも下からも攻撃を受けるさらに大変な状況に追い込まれていたことになります。
普段は沖合にいるオオミズナギドリが、岸からわずか数十メートルほどの距離の入り江に大集結してきたのです。一瞬にしてカオスな状態に陥りました。野鳥を見始めて50年近くなる筆者ですが、このような場面に出くわすのはもちろん初めてで、心臓がバクバク! 砂浜で水遊びをしていた子どもたちも大きな歓声を上げて見入っています。
イワシの大群を狙って、オオミズナギドリが空中から次々と突っ込んできました。どこかの外国の動物番組を見るかのようです。いきなりの集団一斉攻撃を受けてイワシも慌てているでしょうが、オオミズナギドリもみな殺気立っています。本当にイワシを見ながら飛び込んでいるのか、「もうこうなったら当てずっぽうで飛び込んじゃえ!」状態なのかもわかりません。この騒ぎに巻き込まれたのか、サヨリが飛び跳ねるシーンもありました。
しかし、この狂騒もわずか3分間ほどでお開き。オオミズナギドリは少しずつ落ち着きを取り戻し、沖合へと帰っていくのでした。
オオミズナギドリは、間もなく南国へと旅立っていきます。ただただ広い海原を飛びながら、誰もいない海の上でも、この日のような大集結を繰り返しながら越冬地へと向かっていくのでしょう。彼らの長旅の安全を願いつつ、来春、再び子育てのためにこの日本に戻ってくることを楽しみにしています。