蛇口をひねれば水が出る、どこでもスマホがつながる、すぐにトイレがある。登山ではそんな「下界の常識」は、標高が上がり山奥になるほど通用しない。頭でわかっていても、いざ現場で直面するとなかなか対応が難しいものだ。

 かくいう筆者も今ではすっかり慣れたものの、初めて直面した際にはカルチャーショックに近い感覚を覚えたことも多い。今回はそんな経験談をお伝えする。これから登山をはじめてみたいと考えている方の、参考になればうれしい。

■山では、水は貴重品

赤岳頂上山荘のメニュー表。飲み物は高級品なのだ

 登山においても重要なのが「水」である。登山をはじめたばかりの頃に木曽駒ヶ岳へ日帰りで出かけた際、「水の量はこのぐらいで大丈夫だろう」と1リットル持って登ったところ、後半の登りでなくなってしまい喉の渇きと不安で辛い思いをした。それからは、荷物を少しでも軽くしたい気持ちはあるが、水は大体プラス0.5~1リットルぐらい多めに持ち歩くようにしている。

 もちろん登山道に水道はないので、地上のようにどこでも水が手に入るわけではない。山によっては途中で水場があり、水を汲める場合があるが、その年の雨や雪の量によって、湧き水や雪解け水の量が大きく左右されるため、毎年必ず水が汲めるとは限らない。また、時期による枯渇や設備の故障で使えないこともある。しっかり事前に調べておくのが安心だ。

 登山者が多い山であれば、山小屋などがある場合も多く、水が手に入ることもあるが無限ではない。山小屋によっては使用する水を天水でまかなっている場合もあり、手を洗ったり、歯を磨いたりする水も貴重なのだ。個人差や登る山や季節にもよるが、水は余分に持っていくようにしたい。

トイレ後の手洗い用に、バケツに汲まれた天水(八ヶ岳の赤岳頂上山荘)

 また、電気バスやロープウェイを乗り継いで山奥まで行く富山県・室堂では、途中の乗り継ぎ駅で降りるたびに自動販売機で売られているペットボトル飲料の値段が100円ずつ上がっていくのに驚かされた。山小屋でも色々な飲み物が売られているが、値段は下界の2倍、3倍になることも珍しくない。

 しかし、1本500円という価格は、それをヘリコプターや歩荷さんが苦労して運んできた労力と費用の重みでもある。一般の流通経路とは違うことを考えれば、高すぎるということではないのは、すぐに理解できるだろう。値段を目にすると「もったいないから少しずつ飲もう」と無意識に水分補給を控えたくなるが、水が足りなくなると体調不良や脱水症状に直結するため、しっかり補給するように気をつけたい。

■山の中では電波が入らないのは珍しいことではない

剱岳に向かう道で振り返ると、朝日に照らされた剣山荘と山並みが広がっていた

 ご存知の方も多いと思うが、山で電波が入らないのは珍しくない。スマホのアンテナが数本立っていても、山を越えたり、稜線の岩陰に入ったりするだけで、圏外へと変わってしまう。

 山アプリで地図を確認していても、現在地が正確ではない場合もあるため、何かあったときのために紙の地図は必須だ。なお、スマホなどは位置情報を常にオンにしているとバッテリーの消耗が激しいため、筆者は常に「機内モード」に設定している。

 2025年の夏に、剱岳の前にある剣山荘を訪れた際、部屋の中でまったくスマホが繋がらない場所があり、入口近くの発信機の近くに移動して、ようやくメッセージを送ったという経験をした。

 山小屋の方によれば、「ソフトバンクはアンテナが設置されたので繋がりやすくなったが、他はまだ不安定」とのこと。天候が雨だったこともあり、余計に電波が入りづらかったのかもしれない。

 もし電波が心配な場合は、各大手キャリアごとに登山道のサービスエリアマップがあるため、把握してから登るとよさそうだ。