ガラス張りのスロープカーで行き着いた温泉宿、「界 鬼怒川」。
目の前には中庭が広がり、益子焼の水琴窟(すいきんくつ)がキン! と音を立てる。エントランスホールには大谷石がふんだんに使われており、栃木ならではの素材選びに感心する。
そういえば最初に見たスロープカーが待機するエントランスも、大谷石で出来ていた。
10年前、同じく栃木県内にある大谷資料館を訪れたことがある。そこには大谷石を採掘していた巨大地下空間があり、幻想的な雰囲気に圧倒された。よく映画の撮影なども行われているので、見たことがある人も多いだろう。
以来、大谷石に心惹かれる。街中に大谷石があるとすぐ気づくようになった。
ロビーに入ると、目の前には益子焼の壺がずらり。これらがあとで大活躍するとは、この時は夢にも思わなかった。ロビーの前にも、中庭側にも椅子やテーブルが並べられ、全面ガラス張りの窓を通して景色を楽しめるようになっている。
まずは部屋へと案内してもらった。チェックインは15時からで、部屋で手続きができる。
露天風呂付き和室「とちぎ民藝の間」は、定員1〜3名で40平米の広さがある。ソファの置かれた和室の奥には低めのベッドが2つ並ぶ。テラスに専用の露天風呂があるのもうれしい。
部屋の壁には、やはり益子焼で出来た作品が飾られ、黒羽藍染で染められた布がベッドや障子まわりを彩る。鹿沼組子の電灯カバーは木のぬくもりが感じられてよい。黒羽藍染も、鹿沼組子も、同じく栃木の伝統工芸である。
時刻は16時。「温泉いろは」というアクティビティが始まる時間になった。界 鬼怒川の湯守りの金子さんが、鬼怒川温泉の歴史とともに泉質や効果的な入浴法を教えてくれた。
鬼怒川温泉は、「傷は川治、火傷は滝(鬼怒川)」と謳われた名湯。「アルカリ性単純温泉」なので、肌に優しく、長く浸かるのに適した温泉である。
温泉の効能などについては、私も一応「温泉ソムリエマスター」の資格を持っているので、基本はわかる。
覚えておくとよいのは、温泉分析表に書かれている「pH(ペーハー)値」。数値が高いほどアルカリ性で、低いと酸性。アルカリ性の温泉は、皮脂を溶かして角質をやわらかくしてくれる。アルカリ性温泉が「美肌の湯」と呼ばれるのは、それが理由である。
さっそく大浴場へ向かい、温泉に浸かってみた。こちらの温泉は、大浴場、部屋の露天風呂ともに、41度で温度を保っているそう。気持ちがほぐれ、かなり長くここで過ごした。
湯上がりには、うれしいことに無料のアイスキャンディーや、冷たいジュースのサービスがある。