毎年、ゴールデンウィークは山の事故が多く報道される。登山に関わる職業ガイドをまとめる日本山岳ガイド協会でも、登録ガイドへこの期間中の安全対策について十分に注意を払うように通達があった。4月後半の不安定な天候から一変した穏やかなゴールデンウィーク後半は、残雪の滑落や道迷い、発病などの山岳遭難事故のニュースが流れた

 2022年4月(山梨県警発表)の山岳遭難発生状況を振り返り、山梨県在住の登山ガイドである渡辺佐智が県警地域課へのインタビューを行い、遭難事故データをもとに4月の傾向を解説していく。

■2022年4月の山梨県の遭難

山系別遭難発生状況。富士山0件、御坂山系2件(身延町山中、王岳)、南アルプス0件、八ヶ岳0件、秩父山系0件、大菩薩・道志1件(御前山)『山梨県警発表、2022年4月1日~4月30日』

 山梨県の4月の遭難件数は3件で、先月から3件減少した。2021年(令和3年)4月の遭難件数は2件であったため、例年4月はライフイベント(入学や就職など)と重なることも、減少の要因かと考えられる。

 山系別では、アクセスしやすい山域で事故が起きている。御坂山系は王岳(1,323m)、身延町山中(400m付近)、大菩薩・道志は御前山(484m)である。

■遭難の原因は……

態様別発生状況。道迷い1件、滑落2件、転落0件、転倒0件、疲労0件、発病0件『山梨県警発表、2022年4月1日~4月30日』

 4月の態様別は、下山中の道迷い1件、トレラン中の滑落1件、山菜取り中の滑落による死亡1件であった。それぞれ、4月の山梨県の山岳利用状況に応じた遭難が起きている。

■単独登山は重大な結末に

山岳遭難発生状況。発生件数3件、遭難者数3名、死亡1名、負傷者1名、行方不明0名、無事救助1名『山梨県警発表、2022年4月1日~4月30日』

 4月は発生した3件のうち、2件(死亡1件、負傷者1件は重傷)が重大な結末となった。少ない事例数ではあるが、3件とも、「単独、男性、50代以上、登山歴あり、登山届なし・保険加入なし」となっている。

 単独の場合は結末が重大になる確率が2倍以上高くなる(※)。単独でも、チャレンジする登山と、一人で気軽な登山とあるが、私自身、一人でふらりと入山する場合こそ、気持ちがゆるみ対策がおろそかになる、と思っている。当たり前のことだが、単独の場合のバックアップは自分以外に考えてくれる人はいない。

※警察庁発表の2020年統計では、
単独登山の遭難者の死者・行方不明者の割合は15.8%
複数登山(2人以上)の死者・行方不明者は6.6%

■富士山における5〜6月の滑落事故

過去5年間(5月・6月)の富士山における遭難状況『山梨県警発表』

 富士山の5月の遭難について取り上げたい。事故は全て滑落により発生しており、開山前の残雪期5月と6月においては5月に起きている。過去5年間では、5月は5件、6月は0件となっており、梅雨前の好天時に事故が起きている。これらは山梨県警が管轄する富士吉田ルート付近での事故だ。

 5件のうち、単独登山は3件、複数登山は2件である。複数登山はいずれも軽傷なのに対して、単独登山の3件は死亡という厳しい結果となっている。全5件中4件は、「八合目」付近から「本八合」にかけて起きており、3,000mより上部での雪面と傾斜の変化の難しさが結果に表れているように思われる。