落ちついた天候が続いた10月は、美しい秋の山を楽しまれた方も多かったのではないでしょうか。穏やかな山行を私も振り返っていましたが、山梨県警から受け取った遭難データを見てその数に驚きました。昭和40年(1965年)から取り始めた山岳遭難データは、月次の過去最多を記録したそうです。登山を楽しむ方は増えてほしいですが、遭難者は増えてほしくありませんね。この10月、山梨県内の山では何が起きていたのか、振り返ってみましょう。
2022年10月(山梨県警発表)の山岳遭難発生状況を振り返り、山梨県在住の登山ガイドである渡辺佐智が県警地域課へのインタビューを行い、遭難事故データをもとに10月の傾向を解説していく。
■「道迷い」最多
10月の遭難は31件、38人となり、統計を取り始めた昭和40年以降、57年間の月間で過去最多となった。気になったのは、道迷いと必携装備の不足である。
・全遭難者38人のうち、21人が「道迷い」
・「道迷い」遭難者は有効な地図(紙、アプリ)を携帯していない(21人中20人)
・「道迷い」遭難者の7割の方がヘッドライトを携帯していない(21人中15人)
・「下山中」の遭難は23件30人(全31件38人中)
・60代以上が約6割以上(9月に同じ)
最多の遭難理由は道迷い14件(9月は2件)となった。9月の最多の要因「滑落10件」から入れ替わった形だ。残念なことに、道迷い遭難者の大多数が地図とヘッドライトを携帯していないことに愕然とする。どちらの必携装備も持っていれば、遭難を減らす可能性があるものだ。さらに残念なのが、道迷いの遭難件数は14件だが、遭難者人数で数えると21人と増えてしまうこと(単独は9件9人、複数人は5件12人)。他の遭難理由に比べて、道迷いはグループごと遭難してしまうと件数に対して人数が増える。反対に言えば、人数がいれば道迷いしかかっていたとしてもグループ内で知恵を出し合って脱出できる可能性もある。
複数人の道迷いのうち1件は、「下山中に先行する友人とはぐれてしまい」遭難している。一緒に入山した人とは下山するまで離れない、というのは登山の基本である。
■無事救助が6割
無事救助された方が25名となった。喜ばしい反面、救助現場の負担を考えると厳しいと言わざるを得ない。繰り返しになるが、10月は登山者側の明らかな準備不足(地図、ヘッドライト)で、遭難件数を押し上げているため、この方々が“絶対に必要な登山装備”を持っていれば、避けられた可能性が高い事態だ。道に迷い日没を迎えたとしても、グループに1つでもヘッドライトがあれば、その場から脱出(安全ではないが)できたかもしれない。ヘッドライトがあれば、救助者に自分の位置を知らせるシグナルにもなる。誰か1人でも地図を持っていて読むことができれば、結果は変わったかもしれない。入山前に必携装備を持っているかお互いに確認をしよう。
また、道迷い人数(他の遭難理由に比べ外傷は少ない)に比例して無事救助も増加したため埋もれているが、遭難の結果が重大な方が9名いらした。9月の同結果11名に比べるとそれほど減少していないことがわかる。死亡の全2件はいずれも滑落が要因だった。