4月上旬、暖かい日が続き、山梨県内では薄紅色の桜から追いかけるようにピンク色の桃へ、花の競演が続いた。甲府盆地の桃畑は華やかさを誇り、見るものに春の解放感を感じさせる。

 2022年3月(山梨県警発表)の山岳遭難発生状況を振り返り、山梨県在住の登山ガイドである渡辺佐智が県警地域課へのインタビューを行い、遭難事故データをもとに3月の傾向を解説していく。

■2022年3月の山梨県の遭難

山系別遭難発生状況、富士山0件、御坂山系1件(大畠山)、南アルプス山系1件(北岳)、八ヶ岳0件、秩父山系1件(乾徳山)、大菩薩・道志3件(本社ヶ丸、倉岳山、滝子山)『山梨県警発表、2022年3月1日~3月31日』

 山梨県の3月の遭難件数は6件であった。先月から1件増加した。うち4件は3月11~13日(金・土・日)の間に起きている。週末に晴れが重なると人出が増え、事故も比例することがうかがえる。晴れて気温があがると、疲れやすく集中力が切れやすくなるのは実感するところだ。

 先月に引き続き、大菩薩・道志エリアでの遭難が目立った。本社ヶ丸(1,631m)、倉岳山(990m)、滝子山(1,590m)と関東から中央線でアクセスのよい山で発生している。遭難者の居住地別でみると、東京2件・神奈川2件・茨城1件・山梨1件の全6件だった。

■状況の変わりやすい3月、遭難の原因は分散

態様別発生状況、道迷い1件、滑落1件、転落1件、転倒1件、疲労0件、発病2件『山梨県警発表、2022年3月1日~3月31日』

 道迷いが6割を占めた先月から一変、遭難の原因が分散した。3月の天気は、冬と春と行ったり来たりするため、登山道の状況が大きく変わりやすい。雪や氷が融け、登山者も増えてきて、登山道の認知はしやすくなる反面、凍っていたところが溶け、滑ったり転びやすくもなる。また、冬季は休んでいた登山者にとっては、体や判断がまだ慣れていないシーズンスタートとなることも要因ではないだろうか。

 遭難が起きた時間を見ると、6件中3件は13時台に発生している(他3件はそれぞれ、クライミング中の転落が5時台、道迷いが16時台、死亡により時間不明)。

 13時台は昼休憩の後だったり、下山中だったりで、集中力が切れてくることが多い。午後の時間帯に入ったら、まずは意識して行動することが事故を起こす可能性を下げることに繋がる。

■登山歴の2極化か?

山岳遭難発生状況、発生件数6件、遭難者数6名、死亡1名、負傷者3名、行方不明0名、無事救助2名『山梨県警発表、2022年3月1日~3月31日』

 山岳遭難発生状況は先月と似たような傾向である。亡くなられた方は、単独で入山し、連絡の取れないことを心配した家族からの要請により、救助開始。地上部隊による3日間の捜索で登山道から離れたところで発見されている(態様:発病)。単独登山の遭難結果の重大さを考えると、身につまされる思いだ。

 また、6名の遭難者の登山歴(年数)のデータを見ると、“0年”と始めたばかりの方が3名、その他の3名は“9年~40年”と中級者以上の登山者であることが予想された(年数だけでは登山経験値は図れない)。

 一概には言えないが、新しいことを始めたばかりの頃は失敗が多いし、物事に慣れてきた頃に事故を起こすことは、登山でなくてもある。初心者は経験者から学ぶのが近道だし、経験者は自分を振り返るのを忘れないでいたい。