標高の高い山では紅葉の便りが聞こえ、低い山も暑さがやわらぎ登りやすくなってきた。山梨県警発表の1ヶ月間(8月26日~9月25日)の山岳遭難発生状況をもとに、山梨県在住の登山ガイドである渡辺佐智が、県警地域課へのインタビューを行い、事故データをもとに解説したい。

■2021年9月の山梨県の遭難 

山系別遭難発生状況、御坂山系2件(三石山、五老峰)、南アルプス山系3件(北岳、農鳥岳、七面山)、八ヶ岳1件(三ツ頭)、秩父山系3件(乾徳山、泉水谷、甲府市内里山)、大菩薩・道志1件(滝子山)『山梨県警発表、2021年8月26日~9月25日』

 山梨県の9月の遭難件数は10件あった。8月の7件(同時期)に比べて微増した。南アルプス山系、秩父山系が多い。北岳、乾徳山では8月に続き遭難が発生している。

 前月に比べて天気の安定した週末が多かったためか、晴れ予報に休みが重なる日に遭難がおきている。10件とも休日に発生し、特に9月後半のシルバーウィークは顕著だ。天気が良ければ、入山者(母数)が増えるため、遭難件数も比例して増加する。

■道迷いが滑落を上回る

態様別遭難発生状況、道迷い4件(乾徳山、農鳥岳、五老峰、滝子山)、滑落3件(三石山、七面山、泉水谷)、転倒1件(三ツ頭)、疲労1件(北岳)、発病1件(甲府市内里山)『山梨県警発表、2021年8月26日~9月25日』

 態様別を見ると夏季(7-8月)の間は滑落や転倒が多かったが、秋になり道迷いが滑落を上回った。先月まで目立っていた北岳での滑落が、今月はなかったのが要因にあげられる。今後、高山から冠雪のニュースが届き始めると登山対象の山の標高が下がるため、冬に向けてこの傾向は続くと思われる。

 県警地域課によると道迷い遭難者の多くは、地図をアプリや紙で携帯しているということだ。地図読みのスキルの問題だろうか。

■登山届の提出、登山保険の加入

登山届の提出、提出3件(北岳、農鳥岳、滝子山)、未提出7件(乾徳山、三石山、五老峰、七面山、泉水谷、三ツ頭、甲府市内里山)『山梨県警発表、2021年8月26日~9月25日』

 遭難件数10件のうち、登山届提出済みの登山は3件。半数以上の7件は未提出である。登山する山の標高が低く、近場になるにつれて未提出の傾向は強くなる。単独登山が増えており、登山届の提出が個人一人に委ねられることも未提出の多さに拍車をかけていると思われる。

 また、登山保険の加入も10件中3件(北岳、滝子山、三石山)のみで、7件は未加入であった。