梅雨と梅雨明け、午後の雷と台風。はっきりとした季節が例年通り順番に訪れて、予測のたてやすかったあの頃はいずこか。気象を表す新しい言葉が生まれて、夏の登山計画の柔軟さと気持ちの切り替え(諦めも)がますます大切に感じている。
2022年7月(山梨県警発表)の山岳遭難発生状況を振り返り、山梨県在住の登山ガイドである渡辺佐智が県警地域課へのインタビューを行い、遭難事故データをもとに7月の傾向を解説していく。
■2022年7月の山梨県の遭難
山梨県の7月の遭難件数は21件であり、先月から3件増加した。山系別では、高所を抱える南アルプス山系が10件と増えており、約半数を占めた。2020年にクローズしていた南アルプスは、その反動のせいか人気が上昇し、全体の遭難件数を押し上げているようだ。また、北アルプスのいくつかの山小屋ではコロナウィルスの感染のため、臨時休業を余儀なくされたことも影響しているのではないだろうか。
この連載は2021年7月からスタートしたため、今月は昨年と今年のデータを見比べながら進めたいと思う。すると、前年同月で比べても増えたのがわかる。昨年は(秩父山系6件のうち)乾徳山4件の遭難が、南アルプス山系の次に多く目立った。
▷2021年7月の遭難:18件、18名
▶︎2021年7月の南アルプス山系:8件
■「滑落」が「道迷い」を上回る
「滑落」が大きく増えて、「道迷い」が減り、それぞれの割合が逆転した。これは昨年と同じ傾向で、夏季は3,000m級の高所登山での滑落事故が増える。特に北岳での滑落は今月3件(南アルプス山系では4件)あった。いずれも一般的な御池ルートを下山中に起きている(※大樺沢ルートは通行禁止)。
▷2021年7月の滑落:7件
▶︎2021年7月の南アルプス山系での滑落:4件
6月の1件から、7月4件に増えた「発病」を詳しくみてみると、急性心不全、熱中症、脱水症状、持病となっている。また、「疲労」2件中1件は疲れの後に低体温症を発症している。脱水、熱中症、低体温症は、予防方法や体の反応を知ることで、回避できる可能性があるものだ。どのくらいの登山で自分がどんな反応をするのか、その反応に気づくことができるのか、冷静に判断する目がほしい。
▷2021年7月の発病:1件(熱射病)
▶︎2021年7月の疲労:2件
今シーズン、山梨県警の安全への取り組みとして、白根御池小屋(2,236m)に隊員が数名詰めており、有事の際の出動が早くなった(週末のみ)。実際に7月10日の事故では、小屋を拠点に活動中の隊員が、遭難者の叫び声に気づき、救助を行っており、頼もしい限りだ。