9月は天気の悪い週からはじまり、良い週と悪い週が交互に訪れた。連休の週末は2回とも、それぞれ台風14号と15号に阻まれ、せっかく計画した登山日程を天気に翻弄された登山者も多かっただろう。全体的に気温が高めだったせいか、紅葉のスタートは少し遅めのようである。
2022年9月(山梨県警発表)の山岳遭難発生状況を振り返り、山梨県在住の登山ガイドである渡辺佐智が県警地域課へのインタビューを行い、遭難事故データをもとに9月の傾向を解説していく。
■高齢者の遭難が多い
9月の遭難は18件、21人となり、先月の22件22人から若干の減少となった。今月取り上げたいのは3つ。
・「滑落」最多だが、「疲労からの行動不能→救助要請」が気がかりだ
・深刻な結果(死亡、重傷)が半数以上と先月に同じ
・60代以上が約6割
年代別で見ると、60~80代はあわせて12人と高齢の遭難者が半数以上を占めた。実際に私の両親のコロナ禍での体力低下を鑑みると、年齢が上がるほど元の体力に戻すには時間がかかっている。目的の登山が自分たちに可能なのかどうか、一歩引いて再考してもらいたい(どの年代にも言えることだが……)登山に誘われたら、リーダー任せにせず計画を見直して不安があれば断ることも大事だ(こちらもどの年代にも言える…)。親世代の皆さんにはぜひ、自分にあった登山を続けて元気でいてほしい。
■「滑落」最多だが、気になるのは「体力不足」
9月は最多の遭難理由が「滑落10件」となり、8月の「転倒8件」からとって替わっている。死亡の全3件(発生状況は後述)は、いずれも単独で滑落した状態で見つかっている。
それぞれの遭難の詳細をみて気になったことが、「疲労から行動不能」により救助要請した方が6人(※1)いたこと。全遭難者21人中、6人も原因が疲労ということに驚いている。遭難の理由(態様別)のうち、「疲労」は本人とパーティのコントロール次第で防げる可能性が一番高いものだ。友人を登山に誘う側は、「〇〇山、一緒に行こうよ」ではなく、メンバー全員の体力から目指す山を決めているだろうか。
また、県内だけの話ではないが、疲労により自力下山が難しくなった登山者が「最終バスの時刻に間に合わないから」という理由も背景にして、ヘリ救助を要請する事案もあると聞く。登山はそもそも自分で登って自分で下山することで成りたつスポーツ(※2)だ。歩ければ誰にでも始められるが、管理された場所でしか遊んでこなかった人は、野外の危険に対する認識が弱い。初心者やブランク期間のある人は登山の考え方をガイドから教わってほしい。
同じ登山者の立場からみると、前述の理由での救助要請はとてもお粗末だ。遭難が増加傾向のなか、命に関わる緊急事案が同時刻に起きたらどうなってしまうのか……。
※1. 疲労3件(5名)、転倒(1名→疲労から転倒)
※2. 登山をスポーツだと考えることに違和感を感じる方もいるようだが、「管理区域外で行うスポーツ」だと思わないと、準備(体力、装備、技術)不足が生じ、遭難に繋がると私は考えている。信仰登山、狩猟系、マニアックな登山スタイルなどは除く。