■古きものを守りながら、新たな取り組みにも

 春樹さんが大黒屋の経営を引き継いでからは、古き良き山岳温泉宿の雰囲気は大切にしながらも、トイレの洋式化やホームページの導入など新たな設備やサービスも積極的に取り入れてきた。また、地元のチョコレート専門店やコーヒーショップの商品をおみやげとして販売することも始めた。

高根沢「どこでも買えるものではなく、より地域性を出していこうと考えたんです。お客様から地酒のご要望をいただくことも多かったので、那須烏山の老舗酒蔵・島崎酒造さんに作ってもらった『奥那須  大黒天』という日本酒の販売も行うようになりました」

地元で作っているチョコレートやコーヒー豆をおみやげとして販売
那須烏山の老舗酒蔵に作ってもらった日本酒「奥那須  大黒天」

 1869(明治2)年に建て直されて以来、今も現役で使われている本館の建物は、往時にタイムスリップしたような趣きが味わえる一方で、その維持管理には大変な労力がかかり、さまざまな課題もあるという。一時、春樹さんの頭を悩ませたのが、建物や内装の修繕をしてくれる職人さんの後継問題だった。

高根沢「父の代から建物を見てくれている大工さんや畳職人さんが高齢となり、今後引き継いでもらえそうな人を探したのですが、なかなかいい人が見つからなくて。幸い、泊まりに来たお客様に40代の畳職人さんがいたり、ほかのお客様の伝手で同じく40代の若い大工さんを紹介してもらい、今はその人たちに来てもらえるようになったのでしばらくは大丈夫かなと。今年(2025年)の夏の大風呂の改修工事も、その大工さんにやっていただきました」

本館の館内。廊下の台座付きのランプも再建時からのもので、長年大切に使用してきた
日が暮れて、明かりが灯った本館。夜もまた風情がある

 祖父や父が大切にしてきた大黒屋を、自分も同じように守り、次の世代へとつないでいきたい。春樹さんはそんな想いを強く抱いている。

高根沢「僕にとってここは実家みたいな場所でもあるんです。なので、これからもずっと残り続けてほしいなと。だからこそ、昔ながらの良さは大事にしつつ、新しいことも取り入れて、これからもやっていければと思っています」

往時と変わらぬ景色。建物も自然も大切にしていきたい