北アルプスの名峰・立山は、山岳信仰の聖地であると同時に、日本有数の観光ルートとして知られている。なかでも、立山黒部アルペンルートの最高地点である室堂(標高2,450m)から歩くことができる「みくりが池」は代表的な観光スポットだ。

 筆者が訪れたのは10月初旬。紅葉が最盛期を迎え、鮮やかな赤や黄色に彩られていた。みくりが池へ至る道のりは決して長くはない。しかし、その短い道のりの中に、標高2,400mを超える山ならではの唯一無二の時間と光景が凝縮されていた。

■立山黒部アルペンルートで室堂へ

 筆者が立山を訪れた際、長野県側の玄関口である扇沢駅から立山黒部アルペンルートを通った。立山黒部アルペンルートとは、長野県と富山県の県境を黒部湖や黒部ダムを経由して通る山岳観光ルートのこと。扇沢駅からは関電トンネル電気バスに乗り、その迫力に圧倒される黒部ダムを経由する。

 室堂ターミナルに到着すると、空気は一段と冷たく、秋の澄んだ空が広がっている。標高2,450mの地に立つと、計算上の外気温は街中よりも約10℃低くなる。この日は予報に反して風もあり、体感温度で15℃は低いのではないかと感じた。

放流中の黒部ダム

 室堂ターミナルを出発し、石畳の道を歩き始める。目の前には雄大な立山三山がそびえ、その山裾には赤や黄色に染まったハイマツや低木が広がっている。道はよく整備されており、観光客や家族連れの姿も多く、誰もが気軽に楽しめる散策路である。

 歩き始めて10分ほどで、突然視界が開ける。青く澄んだ水をたたえたみくりが池が姿を現す。火山活動によって形成された湖であり、周囲は約630m。水深は約15mあるとのこと。高地にありながら湖面は穏やかで、風のない日には鏡のように周囲の山々を映し出す。

 筆者が訪れた日は快晴で、湖面には紺碧の空と立山の稜線がくっきりと映り込み、その周囲を紅葉が彩っていた。青と赤と黄色。自然が織りなす色彩のコントラストは、まさにこの季節にしか見られない光景であった。

立山室堂の入口。周辺は山々で囲まれている