◼️村の魅力を表現するための“核”が必要だった

自然豊かなことは龍神村の魅力だが、抽象的なままでは魅力が伝わりづらかった

 龍神村が奥辺路の存在に光を当てたのは、村ぐるみで地域おこし事業を始めた時期のことでした。住民が集まり、今後の地域おこし事業のために村の魅力について話合ったものの、出てきたのは「自然が豊か」、「山に囲まれている」、「歴史ある温泉がある」など、どれも抽象的で、魅力が伝わりづらいものばかりでした……。

自分たちの暮らす地域の魅力を言語化するのは難しい

 山間の村ですから、自然が豊かなのは当たり前です。しかし、自分たちが暮らす地域の自然の“どこが”魅力なのか、言語化するのは意外に難しいものです。

 豊かな清流? 水源の森? 昔ながらの里山の風景? と魅力を定めづらい状況でした。

お隣の有田川町にある日光神社の曼荼羅に、熊野大社へと繋がる奥辺路の存在が残されていた(画像:有田川町のHPより)

 僕らがこの問題を解決するには、村の魅力を明確にする “核”となる要素が必要でした。魅力を具体化し、住民同士で共有していくことで、外部にも伝わるストーリーが生まれるからです。

 そんな中、隣町に残っていた文献の調査で浮かび上がってきたのが、「奥辺路」という存在でした。そこから、この“古道再生”を地域おこしの柱にしようという発想が生まれたのです。

◼️幻の熊野古道再生のリーダーに立候補

少しずつ奥辺路の整備を開始した

 以降は、色々な文献を丹念に調べ、現地調査を重ねた結果、かつてのルートが徐々に浮かび上がってきました。そして、少しずつ整備を始めました。

 僕自身、プロのトレイルランナーとしても活動するかたわら、龍神村に移住する前からトレイル整備とルート探しをライフワークとしてきました。また、自然解説の専門家・インタープリターとしての経験も長く積んできました。

 「このプロジェクトを形にできるのは自分しかいない」

 “幻の熊野古道・奥辺路を再生する”というロマンに惹かれて、僕はプロジェクトのリーダーに手を挙げました。