もともと温泉がある山奥に移住したいなと思っていた僕が、移住先として和歌山県の龍神村を選んだ理由は、村の自然環境と人、龍神温泉の泉質がとても良かったからです。同じような条件を持つ移住の候補地として長野県や九州にも足を運びましたが、改めて思い返してみると「移住」を意識して初めて訪れた土地は龍神村でした。
■「玄関開けたら、すぐ登山ができる!」と勢いで家を仮契約
移住前に僕と龍神村を繋げてくれたのは、龍神村にUターン移住をした友人です。熊野古道を歩きがてら友人を訪れたことが、僕と龍神村の出会いでした。
この友人と“龍神村のええとこ巡り”をしている中で立ち寄ったカフェで、現在のお隣さんと出会いました。友人を交えて軽いノリで移住の話をしていると、「近くに空き家があるから行ってみよう」という流れになり、現在住んでいる小又川地区を散歩することになりました。
大きな枝垂れ桜があるお堂の広場があり、きれいな川が流れていて、川沿いに数軒ある集落の1つがその空き家でした。運良く大家さんが近くに住んでいて、家の中を見せてもらうことになりました。そこで家の前で目に飛び込んで来たのが、玄関のすぐ横にある登山道入り口の看板でした。
「玄関開けたら、すぐ登山ができる!」と勢いで家を仮契約し、その日は帰宅しました。
自宅に帰り、妻に良い家を見つけたから今度一緒に龍神村に行こうと話すと、「山を歩いて友達に会いに行っただけで、何で家を見つけてくんの?」と驚かれたのを覚えています。
それから何度も龍神村を訪れて、1年後、僕たち2人は移住することを決めました。
家の仮契約から移住までに1年かかったのは、大家さんから「龍神村の冬は寒いから、移住前に一度経験しといた方が良いで」とアドバイスを頂いたからです。また、ゆっくりでいいから龍神村を知ってから、移住して来なさいとも言って頂きました。
■移住前に1年かけて地域住民たちと交流を重ねた
それから、僕らはじっくり1年かけて龍神村のフィールドの魅力を体験しました。
和歌山県の最高峰龍神岳周辺は積雪が多く、温暖なイメージの強い和歌山県なのに雪遊びができること。雨の翌日に日高川に上がる川霧の幻想的な風景。集落と集落を結ぶ、里山の古道。山と谷が多い地形ならではの、滝や渓流沿いに延びる気持ちが良いトレイル。
登山をしてからの龍神温泉は、やはり格別でした。特に、冬のスノートレイル後の冷え切った体に染み込む柔らかい温泉といったら! 湯上がりのほぐれ感、翌日朝にすっきり目覚められる回復力も素晴らしいものがありました。
また、移住する前に友人の紹介で移住者のコミュニティが開催するクリスマスパーティーや村の祭りにも誘ってもらい、龍神村の住民たちと交流を重ねて行きました。そのおかげで、移住する頃には僕がトレイルランナーであることをたくさんの村人に知ってもらっていました。僕自身も、林業や食に関するたくさんのクリエイターが、龍神村のフィールドを活かしたものづくりをしていることを知ることができ、ますます気持ちが移住に傾きました。
人生を豊かにしてくれる人間関係があることも龍神村の魅力です。龍神村でたくさんのクリエイターに囲まれて生活してきたことが、今の僕の生活を支える3足のわらじ(プロトレイルランナー、さつまいも農家、コーヒー焙煎士)に繋がっています。珈琲の焙煎や畑仕事、古道再生など、僕が現在取り組んでいる仕事は、龍神村の自然環境ならではのものづくりを生業にしようと積み上げてきた活動の結果です。