■ホシガラスはハイマツの実が大好物


夏から秋にかけて、ホシガラスは畳平に集まってきます。それは、大好物のハイマツが実をつけるからです。ホシガラスは、飛びながらハイマツの実を見つけると、すっと降りてきてくちばしで上手にそれをもぎ取ります。
もともと黒い目がパッチリしていてかわいらしい顔をしていますが、一層その顔が輝きを増すように思えるのはひいき目だからでしょうか。

ホシガラスは、ハイマツの実をくわえると、多くの場合そのままハイマツの林の中に潜ることが多かったです。また、飛んでどこかに運んでいく様子も見ることができました。彼らは、ハイマツの実をその後どうするのでしょうか。
■ホシガラスの貯食シーンを目撃!

私が以前、秋に青森県の「八甲田山」に行った際には、ホシガラスが、岩場や杭の上でハイマツの実をほじくっている姿をよく見ることができました。しかし、畳平では、今回そのような光景を見ることは全くありませんでした。
では、畳平のホシガラスはどこでハイマツの実を食べているのでしょうか。ハイマツの中に潜りこんだホシガラスを苦労しながら下から覗き込んでみました。すると、ハイマツの幹を足場にして実をつついている行動を観察することができました。岩場や杭が少ない畳平では、ハイマツ下部の太い幹を調理場として活用していたのです。これは私にとって小さな発見でした。
ホシガラスは、英名でNutcracker(ナットクラッカー)といいますが、まさにその通り。ハイマツの実を鋭いくちばしでつついて崩しては、中にある丸い種子を取り出していました。


ハイマツ帯に潜りこんだホシガラスは調理を終えると、別の実を探しに再び飛び立ちます。どこからホシガラスが出てくるのか、わくわくしながら1分ほど待ちます。水面下に潜ったカワウやカイツブリが再び顔を出す場所を予想するのと同じような楽しみを味わうことができます。
飛び立つホシガラスの喉を見ると、大きく膨らんでいます。ハイマツの種子を喉の袋にため込んで運んでいるからです。
一羽のホシガラスが、ハイマツ帯の切れ目である裸地に降りました。すると、喉から食べたばかりのハイマツの実を吐き出しています。そして、くちばしで丁寧にそれをくわえると、地面の表面近くに埋めたのです。私が初めて見る姿でした。

これは、「貯食」という行動です。1羽のホシガラスが貯食するハイマツの種子は、なんと1シーズンで32,000個にもなるということです。貯食をした種子のうち、8~9割は回収されるというのですから、さすがカラスだけあって頭がよいようです。しかし、残りの1~2割の種子は忘れられて地面に残されます。それが芽を出し、新たなハイマツ帯へと育っていくのです。ちなみに、ハイマツの実がそのまま落ちただけでは、発芽はするもののすぐに枯れてしまうようです。つまり、ハイマツはホシガラスに食べられ、他の場所に埋めてもらうことによって自らの分布を広げられるのです。まさに共存共栄。
畳平のパッチワーク状に広がるハイマツ帯を眺めていると、ホシガラスが「種まき」をした成果がこの風景を作っているのだと気づきます。自然の巧みな関係に感心するばかりです。
そのような「陰の功労者」の姿をハイカーや観光客の皆さんに少しでも知っていただけると、ホシガラスの人気も“揺るぎないセンター”ライチョウに少しは近づけるのではないでしょうか。