唱歌『夏の思い出』に「遥かな尾瀬~」と歌われている国立公園の尾瀬。群馬県や福島県に尾瀬への入山口があることは知られていると思うが、実は新潟県にも尾瀬へと至るルートがある。新潟県側から尾瀬に行く、唯一の入山口が魚沼市の奥只見だ。貯水量の大きな奥只見ダムがあることで知られ、そのダム湖を遊覧船で渡って尾瀬に行くルートが整備されている。

 また、奥只見ダムに行くまでには、19ものトンネルが連続する「奥只見シルバーライン」があり、船でダム湖を渡った先には国道とは思えぬワイルドなバスルートが待っている。さまざまな乗り物を繋いでいくドラマチックな道のりは、「魚沼から行く尾瀬ルート」と呼ばれている。

■新潟県の尾瀬の玄関口「奥只見湖」

奥只見湖は、1961年に完成した奥只見ダムによってできあがった人造湖

 新潟県と福島県の県境を流れる只見川の上流域に位置する奥只見湖は、水力発電のために建設された奥只見ダムのダム湖として誕生した。奥只見ダムは、高さ157m、全長480m。直線重力式コンクリートダムとしては日本一の高さで、日本一の発電出力を誇る。日本第2位となる6億立方メートルの貯水量は、完成当時は東洋一の人造湖と言われていた。

 初夏から秋にかけては奥只見湖で遊覧船の観光が楽しめ、湖の周遊や、銀山平に向かうコースのほかに尾瀬口に向かう便が運行されている。

「奥只見」は見どころ満載
ダムの下にある「奥只見レイクハウス」は食事や休憩に便利な立ち寄りスポット
エビフライやカニクリームコロッケなどさまざまなトッピングが可能な「流れるダムカレー」
バニラベースで酸っぱすぎない「山ぶどうソフトクリーム」は夏にぴったり

 奥只見湖に観光目的に訪れる人も多く、ダムの目の前の「奥只見レイクハウス」で食事や軽食を楽しめる。奥只見湖は釣りも人気とあって、ふっくらと焼き上げた「岩魚の塩焼き」や、岩魚の卵を使用した「黄金のいくら丼」などが味わえ、ごはんは魚沼産コシヒカリを使用。また、ライスがダムの形になっている「流れるダムカレー」は、ソーセージを抜くとカレーが放流されるというのがユニークだ。

 夏に喉を潤してくれる、オリジナルの「山ぶどうソフトクリーム」など、スイーツの種類も充実している。

尾瀬帰りにも最適「奥只見レイクハウス」

■19のトンネルが連続する「奥只見シルバーライン」

重機のない時代、ダイナマイトで崩した岩を人力で運んだ“素掘り”の名残りが見られるトンネルの壁(写真提供:奥只見観光株式会社)

 奥只見湖に通じる「奥只見シルバーライン」は、奥只見ダム建設用の資材を運搬する道路として作られたもの。19のトンネルが連続し、全長22kmのうち18kmがトンネルという国内でもまれなルートだ。薄暗いトンネルはときどき水滴がしたたり、勾配ありS字カーブありと変化に富んでいて、「次の空まで〇km」なんて看板もある。

 ルート後半のトンネルの壁には、素掘りした名残りのゴツゴツとした岩肌が見られ、岩窟を通っているような気分になる。そんな、インパクトのある奥只見シルバーラインの終着点が奥只見ダム。最後のトンネルを抜けると新緑に輝く明るい山間部に飛び出し、そのギャップが感動的だ。

奥只見シルバーラインの終着点が奥只見ダム(写真提供:奥只見観光株式会社)

「奥只見」の歴史を知る
奥只見や銀山平で発生した霧が雲となり、山々を越えて滝のように流れ落ちてくる「滝雲」が見える

 なぜ“シルバーライン”という名称が付いているかというと、奥只見は江戸時代に銀の採掘場として栄えた歴史があるからだという。奥只見シルバーラインが開通される前は、枝折峠(しおりとうげ)を通って奥只見にアクセスしており、そのルート途中には銀山平と“銀”の名がつく地域もある。また、近年の枝折峠は夏から秋にかけて滝雲が見られるビュースポットとして注目を集めている。

滝雲が見られる「枝折峠」