■鉄道の運行が休止となった高架化工事

 南海電鉄には主要路線の本線と高野線以外に、空港線、高師浜線、多奈川線、加太線、和歌山港線とケーブルカーの鋼索線がある。なお岸里玉出駅と汐見橋駅を結ぶ汐見橋線は通称であり、正式な路線名ではない。

 これらの中で、鋼索線をのぞいてもっとも短いのが高師浜線で、営業距離は1.4km。全路線が高石市内を走り、起点の羽衣駅から伽羅橋(きゃらばし)駅を経て、終点の高師浜駅までを結ぶ。

 沿線界隈は1904年の日露戦争時にロシア兵俘虜収容所が建設され、終戦後は陸軍が宿舎として使用。大正時代中ごろには、宿舎跡を利用した住宅開発が行なわれる。その際、地元の名士である山川七左衛門が土地を寄附して鉄道路線の誘致に尽力し、1918年に羽衣駅~伽羅橋駅間が開業。翌年に高師浜駅まで延伸されている。

 そんな高師浜線は、2021年から羽衣駅から伽羅橋駅までの高架化工事を開始。工事期間や周辺道路および土地スペースの問題上、鉄道の運行は全面休止となりバスによる代行運転が実施される。そして、2024年4月6日に工事は完了。高師浜線は、無事復活したのである。

■羽衣駅から伽羅橋駅まで

 羽衣駅は白砂青松の名勝地として名高かった浜寺公園の最寄り駅であり、かつての駅近辺は料理旅館や観光ホテルでも活況を呈していた。いまでこそ、そのにぎわいは失われてしまったが、戸建て住宅やマンションの多い閑静な住宅エリアとなっている。

 そんな町のなかに、真新しくて巨大な高架線路が通じている。

完成して間もない高架線路

 高架付近は、まだ工事中の箇所が多く、完全に整備されるには日数を要しそうだ。

 羽衣駅から伽羅橋駅までは距離にして約1km、15分足らずで到着する。伽羅橋という駅名は近くを流れる芦田川に架けられた木製の橋に由来し、この橋は材木に香木の「伽羅」を使用していたとされる。1865年には石橋に架け替えられ、1988年には芦田川の改修工事にともなって移設されている。

 そして、駅近くの高架の壁には大きく描かれたアート作品が。これは「HAGOROMO MURALS」というプロジェクトの1つ。世界に残る「羽衣伝説」をテーマに活動を行なっているという。

伽羅橋駅の高架下にあるHAGOROMO MURALSの壁画