「本格的な縦走はハードルが高いが、日帰りで山の絶景に出会いたい」 そのような登山者にとって、南アルプスの雰囲気だけでも楽しめて入門に最適なのが「三伏峠(さんぷくとうげ)」である。長野県の鳥倉(とりくら)登山口から片道約3時間で到達する。山頂ではない峠とはいえ標高2,580mに位置し、圧巻の大パノラマが楽しめる。今回は、そんな絶景を日帰りで味わうルートを紹介する。

■三伏峠の概要

 三伏峠は、長野県と静岡県にまたがる南アルプスの主稜線上に位置する峠である。登山道からアクセスできる峠としては日本一の高さを誇る。ここは塩見岳(しおみだけ・標高3,047m)や烏帽子岳(えぼしだけ・標高2,726m)、さらには南アルプス南部への縦走路の分岐点としても知られている。

 テント泊や長期縦走を目的とした登山だけでなく、三伏峠までなら日帰りでも楽しめる。登山口から片道約6km、標高差は約680m。登りの所要時間はおよそ3時間で、歩きやすいルートである。

三伏峠に掲げられた標識

■鳥倉登山口から始まる静かな森林コース

 出発点となるのは、長野県飯田市に位置する「鳥倉(とりくら)登山口」。車でアクセスする場合、中央自動車道・松川ICから約1時間。電車の場合は、伊那大島(いなおおしま)駅から鳥倉登山口までバスで約2時間。登山道はよく整備されており、序盤はブナやダケカンバの森を抜ける心地よい区間が続く。勾配も比較的緩やかであり、ペースを守れば安全に歩ける。

三伏峠の入口である鳥倉登山口

■景色が変化する楽しみ。登るほどに広がる視界

 標高1,900m前後の登山口を出発し、標高を上げるにつれて空気は冷たく澄んでいく。標高が2,300mを超えたあたりから、樹林帯が次第にまばらとなり、周囲の山々の輪郭がくっきりと姿を現す。このルートでは、標高を上げるごとに景色が変化していく様子を楽しむことができる。森林限界を超えると、一気に視界が開け、南アルプス特有の深い谷や稜線が目前に迫る。これこそが、南アルプスの魅力のひとつである。

周囲の山々の輪郭がくっきりと姿を現し、幻想的な瞬間