■電気バスの一ノ倉沢を見に行こう

環境にやさしい電気バスに乗って一ノ倉沢へ

 谷川連峰は独特な気候から群馬県側が絶壁になっており、その様子がよくわかるのが一ノ倉沢の岩壁だ。この岩壁はアルパインクライミングの聖地として知られているが、散策路を通って眺めに行くこともできる。

 一ノ倉沢は谷川岳ロープウェイ山麓駅から約3km。歩いて1時間ほどの距離だ。電気バスが運行し、これに乗ってスムーズに行くこともできる。電気バスの乗り場は、ロープウェイ山麓のすぐそばにある谷川岳山岳資料館の前。車両が黄色い「倉ちゃん」と、緑の「一ちゃん」の2台が交互で運行している。

電気バスで一ノ倉沢に楽々アクセス
インタープリターのお話を聞きながら一ノ倉沢までの短いバス旅を楽しむ

 このバスでは、谷川岳エコツーリズム推進協議会のインタープリター(自然解説ガイド)が同乗し、バスガイドのように案内をしてくれること。動植物や景色、歴史について説明してくれるため、聞き入っているうちに一ノ倉沢に着いてしまうのだ。

 まず、一ノ倉沢に続く散策路は、「明治時代、群馬県の前橋から新潟県の柏崎を繋ぐ馬車道として作られた」という、れっきとした国道であることから説明がはじまる。

比較的のっぺりした印象で傾斜の緩い岩壁をスラブと呼ぶが、逆層と呼ばれるものは手がかり、足がかりになるような凹凸面が下向きに付いている状態。つまり登り下りともに難易度が高い

 散策路が通る道は人の植林した木がないブナが茂る原生林。電気バスは窓がないので、森の空気や風が感じられ、バスに乗りながら森林浴が味わえる。そしてインタープリターが「フィトンチッドの効果でみなさん、おだやかな顔になってるかも」などと笑わせてくれた。

 散策路の中盤にあるマチガ沢で見られる逆層スラブになった蛇紋岩についての説明も興味深い。蛇紋岩はつるつると滑りやすいのが特徴で、さらにこのあたりはその岩が逆層スラブになっているのだとか。一ノ倉沢のクライミングルートはこのような手や足がかかりにくいルートがあるため、難易度が高いのだという。

雨が降ったときに現われる一ノ倉沢の“幻の滝”

 一ノ倉沢に出かけた日は、雨が上がったあとだったので、「雨のときしか見られない光景もあるよ」という情報も教えてくれた。通常、樹木は雨が降ると葉からしずくが落ちていく。しかし、ブナは木の幹を伝って川のように流れてくる。これを樹幹流(じゅかんりゅう)というのだという。

 また、一ノ倉沢は岩盤でできているため水がしみこまない。このため降雨後は水が流れて「幻の滝が現われる」のだとか。一ノ倉沢に着いた頃、雨はすでに上がっていたが、ラッキーなことに水が雪渓に流れ落ちる“幻の滝”を見ることができた。

目の前にそそりたつ大きな岩壁に圧倒される

 一ノ倉沢に到着後も、インタープリターが岸壁や周辺の散策ポイントを教えてくれる。その後は各々好きに過ごし、帰りは歩いて帰ってもいいし、またバスを使ってもいい。

 一ノ倉沢は日本三大岩場のひとつに数えられ、岩壁の下から上まで1,000m以上もあるという。実際に岸壁の前に立ってみると、大きく高く、そして荒々しく、その存在に圧倒される。

雪渓から流れてくる沢の水に触れて涼を感じる

 一ノ倉沢は夏でも雪渓が残っており、「谷川岳の本当に雪深いところなのだな」とを窺い知ることができる。その雪解け水が沢を流れ、それが湯檜曾川に注ぎ、利根川に合流して太平洋に流れ込んでいく。

 しかし、インタープリターによると、近年の雪不足や猛暑によって、「雪の量がずいぶん減ってしまった」のだという。積雪が多いときの写真を見せてもらうと、雪の少なさは一目瞭然だった。

 インタープリターの話は、聞いていて楽しく、内容も関心を抱かせるものが多いと感じた。こうした案内があるからこそ、環境の変化を実感し、自然の大切さ、ありがたさを見つめなおす機会にもなるのだと思った。

【撮影協力】カリマーインターナショナル

一ノ倉沢の岩壁は圧巻

 

●<おすすめルート>

谷川岳ロープウェイ山頂→天神峠ペアリフト山頂→熊穴泡避難小屋→肩の小屋→トマの耳→オキの耳→谷川岳ロープウェイ山頂
(所要時間:約5時間)

ガイドツアーの詳細についてはこちら!

 

●【MAP】谷川岳ロープウェイ