本州が梅雨の時期に、さわやかな気候の北海道へ逃れようと、利尻島と礼文島を旅したことがある。いずれも、日本のどの地域から行くにしても遠く離れた、まさしく絶海の島。とくに礼文島は航路が限定されるため、いったん利尻島を経由しなければならない。アクセスの難しさゆえ、礼文島は「いつか行きたい島」のひとつに数えられることが多いようだ。

 簡単には行けないからこそ、思い出深い旅になる。そんな礼文島を歩くなら、高山植物の豊かな7月がベストシーズンだ。

◼️小さな島を網羅する、大充実のトレイルコース

ゴロタ岬からスコトン岬へ向かう途中、鮑古丹(あわびこたん)神社の白い鳥居が見えてきた

 島には、「礼文島トレイル」と呼ばれる7つのコースが整備されている。山登りといえるのは最高峰・礼文岳を踏むコースくらいで、それ以外は主に海岸線を辿るコースだが、起伏がすごいのでどれもけっして楽ではない。それなりに登っては下りて、を繰り返すため、山歩きの素養と体力、そして装備が活きる。

 どれも島ならではの雄大なコースばかりで、地図を眺めるだけでワクワクしてしまう。とくにぼく好みだったのが、いくつもの岬や浜を越えていく「岬めぐりコース」である。礼文島の北部にある澄海岬(すかいみさき)、ゴロタ浜、ゴロタ岬、そしてスコトン岬を結ぶコースだ。スタート地点をバス停のある浜中とした場合、スコトン岬までは約12kmの距離。素朴にして風光明媚な、抜群に美しい道のりだ。

岬に向かって、それなりに登る!

 この岬めぐりコースは、西側に日本海が果てしなく広がっている。地図で確認すると、はるか先の対岸にロシアがある。スコトン岬まで到達すると、樺太(サハリン)も見える。そういうこともあってなのか、どことなく異国情緒を感じる。素朴で雄大、風光明媚で異国情緒あり。多くの旅人はきっと虜になる。

 北海道には梅雨がないものの、ときおり天候が急変し、冷たい風雨にさらされることが多々あった。北国の、海に囲まれた島の特徴だろう。そんなときのためにも、さっと着脱できるレインウェアや薄手の防寒着は必須。標高が低い場所を歩くとはいっても、ここは緯度が高い地域だ。寒さ対策は万全にしておきたい。ちなみに、すれ違うハイカーはみな、海風から頭部を守るべくフードをかぶって歩いていたのが印象的だった。

来た道を振り返る。美しいグリーンの山肌にハイカーの姿が

 ハイライトのひとつが、ゴロタ浜からゴロタ岬へ登っていく途中で、歩いてきた道を振り返る展望ポイント。下から見上げるのか、上から見下ろすのかで、まるで異なる雰囲気だということがわかるだろう。もちろん見下ろす方が風景の素晴らしさを堪能することができる。

 礼文島の海岸線に張り出す台地は、緑の草原がうねるように続いているのが特徴。ひとたび風が起こると、まるで生き物のような動きで草の原を駆け抜ける。日本のほかの土地では感じることのできない、素朴だけどダイナミックな風景。ここからの眺めが、ぼくの一番のお気に入り。