■肩の小屋まで長い登りが続く

いくつもの鎖場を越えながら斜面を進む

 熊穴沢避難小屋から先は登りがきつくなり、岩場の鎖場がいくつもある。ここでも平らな場所を選んで登っていくことが大切だ。さらに、「つま先だけで登らず、足裏全体をつけて登るように」とアドバイスをもらう。

 足裏をしっかり地につけると靴のグリップ力が高くなり、確かに体が安定する。それに、つま先だけで登るよりも楽に感じる。「歩き方を意識するだけで、こんなに変わるのか」と感動してしまう。

岩の上で小休憩。手嶋さんは休みむのに適した場所をちゃんと知っているのだ

 夏場の暑い時期はまめな水分補給が大切で、「水分をとりましょう」と、ときどき立ち止まってくれる。ときには「そろそろ休憩しましょう」と、休みやすい場所で小休憩しながら景色を眺めたり。疲れないペースで歩けるから、遠くに見えた山頂も「これなら登れそう」と安心できる。

天神尾根を登るルートは特徴的な俎嵓のピークがきれいに見える

 天神尾根の左手に見えるピークは俎嵓(まないたぐら)。かっこいい三角形の山を見て「きれいな山だ」と東海林さんも感動。

「これがヒメシャジン」と教えてくれる手嶋さん

 厳しい気象環境の谷川岳は、標高2,000mに満たない山にも関わらず、日本アルプスで見られるような高山植物が生息している。

 初夏から盛夏にかけて見られる花は、ニッコウキスゲ、オオバキボウシ、キンコウカ、シモツケソウ、クルマユリ、ミネウスユキソウなど多種多様。「天狗の留まり場のあたりには、ヒメシャジンが群生していますよ」と手嶋さん。

 「天狗の留まり場」は大きな岩の上から眺望が楽しめるポイントだ。その周辺には釣鐘のような青紫の花を着けるヒメシャジンがあちこちに咲いていた。

山頂付近の笹原。ここを登れは肩の小屋がある

 谷川岳は標高1,500m付近で森林限界となり、尾根の中盤から高い木がほとんど見当たらなくなる。「天狗の留まり場」や「天神ザンゲ岩」など岩場の展望地があるのもこのあたり。そして、山頂付近が近づくと一面に笹原が広がっている。

尾根から振り向くと眼下にみなかみ町。その向こうには赤城山が見える
谷川岳の山頂直下に建つ「肩の小屋」

 笹原をひたすら登りきると、平坦な場所に谷川岳「肩の小屋」がたっている。ここまでくれば谷川岳山頂はもう目の前だ。

 小屋には売店もあり、冷たいドリンクも売っている。たまらず、東海林さんが「コーラが飲みたい! 」と売店に駆け込んだ。見晴らしの良い山の上で味わうコーラは「すっごくおいしい」と、あっという間に飲み干した。

■2つのピークを踏みしめる!

小屋からまずはトマの耳に登る

 肩の小屋から少し登ると、谷川岳の山頂だ。谷川岳は2つのピークをもつ双耳峰で、小屋から向かい、手前にあるのがトマの耳(標高1,963m)。その先にあるのがオキの耳(標高1,977m)だ。

 山頂は開放的で、周囲の山並み、山麓の街並みをぐるりとパノラマで見渡せる。スタート地点の谷川岳ロープウェイ山頂やリフト山頂も遠くに見えて、「あそこから登ってきたのか」と、達成感が湧きあがる。

登頂を成し遂げ、満ち足りた笑顔の東海林さん
オキの耳に続く稜線。新潟県側と群馬県側で地形が大きく異なっている

 しばし登頂の感動をかみしめた後、もう1つのピークであるオキの耳へと向かう。谷川岳は新潟県と群馬県にまたがり、山の稜線がちょうど県境。その稜線から山を眺めると、新潟県側がゆるやかな斜面になっているのに対し、群馬側は切れ落ちた絶壁になっている。

 冬季、日本海の湿った空気が新潟県側から流れてくると、谷川岳にぶつかって雲となり、このエリアにたくさんの雪を降らせる。その雪が群馬県のほうに崩れて山を削るため、このような地形ができあがったという。

オキの耳の山頂直下。後ろに見えるのはトマの耳のピークだ
オキの耳のピークを踏んで、これにて谷川岳の2つのピークを登頂!

 トマの耳からオキの耳までは15~20分ほど。途中には、あちこちでハクサンフウロの花が咲いていた。訪れた時期、ロープウェイ山頂あたりはもうニッコウキスゲの見ごろを終えていたが、山頂付近ではまだちらほらと花が残っている。

 手嶋さんが花の名前をあれこれ教えてくれるので、「花の名前を知ると興味が出てくる」と東海林さんも草花に目を向けるように。

 ガイドの案内とともに山を登ると、ただ山頂を目指すだけではなく、景色や植物、地形などにも目が行くようになって、「山登りがより楽しく感じた」と満足気だ。