松本潤が徳川家康を演じるNHK大河ドラマ『どうする家康』。初回からいきなり「どうする桶狭間」で、「え、幼少期はハショっちゃうの?」と思わなくもなかったのだが、ま、家康の生涯には「どうする?」がいくつもあるし、幼少期は振り回されていただけだし、ね。

 そうは言っても、家康がその後の人生を歩めたのも、若き日があったから。そして、先祖の功績があってこそ。家康は松平家の9代目当主。初代が築いた山城、松平城攻めルポ。前編ではいくつかの曲輪と、水の手までを攻略。後編では、いよいよ主郭まで到達します。

■水の手攻略に四苦八苦? <前編>を読む

■イマイチ守りに薄い尾根上の曲輪

 松平城は標高300m、比高60mほど。登山道も整備されており、主郭まで登るだけならば、ものの15分もかからない。だが、それでは山城としての魅力を、半分も楽しんだことにはならない。城域をくまなく巡り、各所に残る遺構をひと通り攻略してこそ、山城。道が整備されていて迷う可能性も低いなら、なおさらだ。

 前編では、中腹に点在する幾つかの曲輪をハシゴし、山城の命運を握る遺構、水の手を見つけてきた。後編は水の手から引き返し、いよいよ城の中枢部へと足を運ぼう。

神社の立つ曲輪から、主郭まで延びる尾根道

 一般的な登山の場合でもそうだが、尾根は山を歩くのに最も適したルート。迷いにくいし、そのままたどれば大抵、頂部に至る。城の主郭へ向かうにも最適なルートだ(必ずしも、頂部=主郭ではなかったりするのだが)。

 ゆえに、城を守る側としては、まず、尾根からの攻め手に対する防備を意識する。堀切や土橋など、簡単に前進できないような仕掛けを設けるのがセオリーだ。

 松平城、前編で見た数々の切岸に比して、尾根道の守りはちょっと甘いのではないか。アップダウンはあるものの、土木的な技巧を見られるポイントはない。

尾根上に並ぶ段曲輪のひとつ
尾根上の曲輪(縄張図3)より。右側の斜面は前編で最初に見上げた切岸 
「松平城址縄張図」3の曲輪は尾根上にある

 唯一、段曲輪の端が落差の低い切岸になっているぐらいか。その内側に土塁でもあれば、と思うのだが……。

 松平城、松平家が本拠を岡崎に移して以降も、一族が守っていたという。破却されたのは、豊臣家が天下を制していた文禄年間(1592~1596)と伝わる。徳川家が武田家や今川家と雌雄を決していた時代には現役。奥三河の山間部とはいえ、親氏が築城したのちに、改修されていてもおかしくない気がするのだが。

※堀切(ほりきり):尾根に入れられた鋭いV字状の切れ込み

※土橋(どばし):両脇を削り幅を狭め、一度に大勢が通れなくした堤状の橋。堀切に設けられることもある

※土塁(どるい):土を盛って土手状にした構造。曲輪の外周部に多い

途中、奥行きのあまりない段曲輪も