■疲れて動けなくなったときの対処法

低血糖になった状態で行動すると滑落の危険性も増す(撮影:fudo2020

 もし疲れて動けなくなったら(低血糖の症状が現れたら)、どうすればいいのか。結論から言うと、前述したような補給が大切だ。基本的には、糖質(できればエネルギーに変わりやすいブドウ糖主体のもの)・水分・電解質を摂取しながら、日陰で楽な姿勢になって30分程度休憩すれば、歩ける程度には回復する。

 おそらく初期の低血糖になった時点で、計画からは大幅に遅れているだろう。回復後、間に合うようなら焦らず移動を開始しよう。再発しないように適度な補給を続けることも重要だ。すでにタイムリミットの場合は、ビバーク(緊急的に山中で一夜を越すこと)せざるをえない。備えがなければ遭難となるため、予防や早めの対処がなにより重要となる。

 ちなみに、低血糖状態での行動はリスクが高い。二度目のヒヤリ体験時、とくに下りでは、木の根や岩に足を引っかけないか、注意がより必要だった。大きな段差では木や岩を掴みながら、ときには背を向けて下ったり、尻もちをついてずりずりと這いながら下ったりした。このときは同行者がいたので大丈夫だったが、焦りや注意散漫で判断力も鈍っていただろうから、単独だったら道迷いにも発展していたかもしれない。そもそも、より深刻な重度低血糖になれば、それ自体生命にかかわる。

 最後に、ここまでのおさらいをすると、疲労による山岳遭難を防ぐためのポイントは下記の3つだ。

(1)登山計画から消費エネルギーを推定し、補給の計画を立てよう
(2)自分にとって、きつくない運動強度(ペースなど)で登ろう
(3)もし低血糖になったら、無理せず、休憩しながらブドウ糖を補給しよう

 「疲れて動けない」を正しく理解し、疲労による山岳遭難を予防しよう。余裕のある計画や危急時用の装備は、どのような山岳遭難に対しても予防策となることも忘れずに。