令和4年夏山シーズン、「疲れて動けない」という見出しの山岳遭難ニュースを何度か目にした。長野県警察が公表している年別山岳遭難発生状況を確認したところ、疲労による山岳遭難件数が令和3年に過去最高(平成23年以降)を記録していた。
人はなぜ山で疲れて動けなくなるのか。筆者自身のヒヤリ体験から「疲労遭難」について考えたい。
■疲労による山岳遭難ヒヤリ体験
筆者はニュースを見るたび「なぜ疲弊するまで行動するのか理解できない、自分にはあてはまらない」と思っていた。しかし振り返ってみると、筆者自身にも2度のヒヤリハット体験があった。
ヒヤリハット体験とは、ヒヤッとしたり、ハッとしたり、危ないと感じた体験のこと。ハインリッヒの法則では、1件の重大事故のウラに、29 件の軽傷事故、300 件の無傷事故(ヒヤリハット体験)があると言われている。
複数のヒヤリハット体験を収集し、危険の認識と対策を深めることで、重大事故の未然防止が期待できる。
元々、この法則は労働災害に言及したものだが、山岳遭難事故にもあてはまりそうだ。各登山者のヒヤリハット体験を共有しあえば、軽傷事故や重大事故を減らせるかもしれない。
実際に関連する研究が進められており、インターネット上では登山者のヒヤリハット体験を共有しあえるようになっている。
参考資料:「登山の知識&ヒヤリハット」http://www.yamanabi.net/
ここでは筆者のヒヤリハット体験とその体験から考えた疲労遭難対策を共有する。少しでも参考になる部分があれば、今後の登山の糧にしていただきたい。
1度目は、山小屋スタッフとして歩荷業務を行ったとき。約36kgの荷物を担ぎ、距離3.6km・標高差700m先の山小屋を目指したが、スタートから標高を上げるにつれ、だんだんと休憩の頻度が多くなった。最終的には少し進んでは座り込む状態になり、ほとんど進めなくなってしまった。
戻りが予定よりも遅いことを心配した先輩が駆けつけ、荷物を山小屋まで運んでくれた。筆者は荷物を背負っていない状態で歩行し、なんとか山小屋にたどり着いた。
2度目は、1度目から4年ほど経った、トレイルランナーに同行したとき。途中で太ももが上がらなくなり、全く走れなくなった。歩きに切り替え山頂までたどり着いたが、身体の反応が鈍く危険なため、ゆっくり慎重に下山した。(幸い早朝からスタートしており、時間には余裕があった)