■魔のアップダウンが待つ赤石岳への縦走路

百間平と荒川三山

 聖岳を後にして一般登山道に入る。聖兎のコルまではアイスバーンの下りで、緊張を強いられた。細尾根の急登を登り返し、一息つきながら兎岳から眺める聖岳は、ただただ大きく感じられる。

 ここから、中森丸山を経て赤石岳にかけては地獄のアップダウンが続くのだが、この日は踏み抜き地獄も合わさり、百間洞山の家に着く頃にはクタクタになってしまった。その場に座り込んで動く気になれない。雪解けの沢水が唯一の救いで、雪を溶かした水の不味さを忘れるかのようにがぶ飲みした。

 ここで泊まりたい気持ちをなんとか振り払い、再び歩き出した。百間平からはハイマツの海原に赤石岳と荒川三山が並ぶ。冷たい風に晒される中、やっとの思いで赤石岳山頂避難小屋の扉を開けて転がり込んだ。

赤石岳から眺める残雪模様の聖岳と東尾根。奥は上河内岳
日没前に何とか赤石岳山頂避難小屋に辿り着いた

■荒川三山を経て椹島へ下る 

赤石岳の朝。荒川三山の奥には塩見岳や間ノ岳が見える

 避難小屋はやはり温かい。熟睡で迎えた朝は、ぼんやりとした朝焼けだ。荒川三山の奥には北部の山並みが見える。3,000m峰の朝の稜線は、アイゼンの爪先しか雪面に刺さらない。ピッケルを握り直して歩き出す。

 荒川小屋から中岳に乗る夏道はトラバースが続くため、この時期は途中から直登する。必死にハイマツを漕いで稜線に出た。悪沢岳は岩場が出ていて歩きにくい。アイゼンも取るに取れない。

 千枚岳周辺も緊張感のあるトラバースが続く。このあたりは無雪期にはお花畑がいいところであるが、今はそれどころじゃない。千枚岳山頂から赤石岳の残雪の眺めにホッとして、一目散に下山を始めた。なぜなら、夕方までにレストハウスに着いて、ビールにありつきたいからだ。芝生にテントを張って、裸足でジョッキを傾ける欲求にかられた。

Route:(行動時間の目安)
1日目:畑薙第一ダム→椹島ロッジ(バス約1時間)
2日目:椹島ロッジ→白蓬ノ頭(約7時間)
3日目:白蓬ノ頭→聖岳→兎岳→百間洞山の家→赤石岳山頂避難小屋(約12時間)
4日目:赤石岳山頂避難小屋→荒川小屋→前岳→悪沢岳→千枚岳→椹島ロッジ(約10時間)
5日目:椹島ロッジ→畑薙第一ダム(バス約1時間)