世に広く知られる高山植物の女王「コマクサ」。北アルプスや八ヶ岳など厳しい環境下に咲く可憐な姿は、登山者を釘付けにしている。そんな圧倒的な存在感を放つコマクサは、僕の通う南アルプスには咲かないのは少々残念ではある。コマクサの群生地として有名な燕岳のような花崗岩の砂礫が広がる山は、南アルプスにもあるのだけど。
コマクサの代わりといったらおかしいのだが、南アルプスにも、砂礫に可憐な色を落とすお花が咲くのをご存知だろうか? コマクサほど世の中には広く知られていないが、地味なイメージの南アルプスの花でしょ……というイメージを覆す、真夏の南アルプスにしか咲かない「タカネビランジ」についてお話ししたい。
ちょうど、8月頭からお盆過ぎまでが見頃のタカネビランジ。特徴はなんといっても、花がたくさんついた株がブーケのように見え、そのブーケが砂礫にポツリポツリと落ちているような咲き姿だろう。遠目からは、なにか落とし物があるのかなと勘違いするくらい、山中では違和感のある物体に思える。色はナデシコ科らしく、愛らしいピンクは勿論、淡いピンクホワイトや、白など。個体差があり、いろいろな株を観察して歩くのが楽しいお花だ。
タカネビランジは、南アルプスの稜線であればどこでも出会えるお花ではない。もちろん、ポツリポツリと出会える山もあるのだが、たくさんのタカネビランジに出会える代表的な2座を紹介しようと思う。ひとつは派手派手なド!ピンクなタカネビランジが咲き誇ることで有名な「鳳凰三山」。もうひとつは、個人的に一番好きな白のタカネビランジが咲く「千枚岳」だ。