■抱卵期を迎えたハヤブサ
寒い中で愛を誓い合ったあのカップルはどうなっているのでしょうか。3月に再び、海岸を訪れました。
すると、高い岩棚の上でじっとしているメスの姿を見つけました。卵を抱いているのです。近くで撮影していた方に話を伺うと、この日は朝からオスが狩りに行ったまま帰ってこないとのことでした。動きの少ない退屈な時間が過ぎていきます。
しかし、5時間後、突然メスが巣から飛び出しました。オスが帰ってきたのです。メスは、獲物を狩ることもなく長い間留守にしていたオスにちょっとイラっとしたのか、猛スピードでオスを追いかけ回したように見えました。その後、“夫婦喧嘩”も一段落し、オスが巣に入り抱卵を交代しました。ハヤブサのオスはイクメンで、抱卵に参加するのです。
長らく巣に座っていたメスは、疲れをいやすかのように、岩の上でゆっくりと羽繕いを始めました。猛禽類特有の鋭い嘴で、羽毛を丁寧に整えていきます。特に、尾羽を一本一本嘴でしごいていく様子には、猛々しい姿とは違うきめ細かな一面を見ることができました。
また、頭をかいている足指を見ると、指裏には大きな突起があることに気づきました。他の野鳥ではこれほど大きな突起を見ることはありません。きっと獲物をがっちりつかまえるために進化したものなのでしょう。
■意外に堅実派? な一面も
メスは、長い時間をかけて体のお手入れをすませるとふわりと飛び立ちました。そして、対岸の岸壁に舞い降りた次の瞬間には、なにかの鳥をつかんでいました。すでに羽毛がなくなった調理済みのものです。オスが餌を持ってこないので、お腹をすかせたメスが、あらかじめ隠してあった“貯蔵庫”から餌を持ち出したようなのです。このような状況を想定して餌をストックしておくという堅実な生活ぶりには感心するばかりでした。
1か月前にはメスにちゃんと餌をプレゼントしていたオスも、結婚してしまえば少しサボり気味になってしまったのでしょうか。いやいや、この日は偶然そんな日に当たってしまったのかもしれません。ついつい自分のことと重ね合わせて考えてしまう筆者の浅はかさに反省するのでした。
4月には雛が生まれることでしょう。断崖でたくましく生きるハヤブサの繁殖が無事成功することを願いつつ、現地を後にしました。
※野鳥の営巣活動を観察・撮影することは、野鳥へのストレス・影響を考慮し、控えたり慎重に行ったりする必要があります。当地は観光地であり、釣り人や観光客が絶えず付近を通過する場所であるため、ハヤブサは人間に比較的慣れていましたが、取材に当たっては営巣地から離れ、静かに撮影する等、十分配慮しました。