■水深わずか20cmのホソに広がる「生命の揺りかご」
当日、筆者が釣りを開始したのは午後1時過ぎ。ハス田脇のホソをそっとのぞくと、小魚たちが水面近くで盛んに何かをついばんでいる。おそらくカダヤシ(メダカによく似た外来の魚)か何かだろう。水は濁っていて水中の様子は見えないが、魚っ気は十分にある。本命の小ブナもきっといるはずだと信じて、さっそく竿を出すことにした。
この日使用した仕掛けは、市販のタナゴ釣り用の「連動シモリ仕掛け」を長さ2.1mの小物竿にセットしたもの。エサには、フナ釣りの定番である生きたアカムシを使用した。フナは川底でエサを探すことが多いといわれるため、ウキ下(ウキからハリまでの長さ)はホソの水深に合わせておよそ20㎝に調整した。
水草の脇や障害物の影など、小ブナが好んで居つきそうな場所に仕掛けを入れると、10秒も経たないうちにウキが小さく動き出した。
そして最初に釣れたのは、本命の小ブナ。小さいながらも丸々と太った体が実に愛らしい。同じポイントに仕掛けを入れ直すと、今度はウキが勢いよく横へと引っ張られた。このはっきりとしたアタリは、決まってクチボソ(正式名称はモツゴ)。魚種によってアタリの出方が違うため、「これはフナか、それともクチボソか……」と予想しながら竿を構えるのも面白い。
その後も反応は途絶えることなく、土手に沿って延びるホソを小さく移動しながらじっくり探り歩いた。2時間ほど経過した頃には、釣った魚を入れていた「活かしバケツ」がいっぱいに。
釣れた魚の内訳は、フナ、コイ、タナゴ、クチボソ、モエビの5種類、総数は50匹を優に超えていた。一見すると魚などいないように見える小さなホソだが、実際には驚くほど多くの生き物が暮らしており、まさに「生命の揺りかご」と呼ぶにふさわしい環境だ。
もし、子どもと一緒に釣りに出かけるなら、ライフジャケットの着用は必須。それと小型の「観察水槽」を持参するのがおすすめ。釣れた魚を横から観察すれば、種類や特徴の違いを学ぶ格好の自然教材になる。こんな小さな水辺でも、親子で自然とふれあえる豊かな時間を過ごせるだろう。
使用したタックルと道具は以下のとおりである。
【筆者の使用タックル】
ロッド:淡水小物竿 長さ2.1m
仕掛け:市販のタナゴ釣り用のセット仕掛け(連動シモリ仕掛け)
予備のハリ:タナゴ針、袖針1~2号など ※カエシはつぶした
エサ:生きたアカムシ(ユスリカの幼虫)
【あると便利な道具】
小物用の針外し:魚に触れず針が外せる
エサ入れ:アカムシの乾燥を防ぐ
活かしバケツ:釣った魚を生きたまま一時的に入れておくもの
エアーポンプ:活かしバケツに入れた魚に酸素を供給
小型の観察水槽:釣った魚を横から観察
手洗い用の水:ペットボトルに水道水を入れたもの
タオル:濡れた手を拭くために使用
■親子連れにもおすすめ! 秋の霞ヶ浦・小さな自然体験
霞ヶ浦のホソで過ごすひとときは、釣り人だけでなく、親子連れにもおすすめしたい。釣りの経験がなくても、小さなウキがゆらりと揺れ、ふと沈む瞬間には、大人も子どもも思わず声を上げてしまう。手のひらに収まるほどの魚を釣り上げる体験は、単なる遊びを超えて、自然とつながる小さな感動を運んでくれる。
観察水槽をのぞけば、フナやコイ、クチボソなど、多くの生き物が小さな水路に暮らしていることに気づくはず。親子で魚の名前を調べたり、形の違いを見比べたりする時間は、図鑑にはない「生きた学び」に満ちている。秋風がハス田を渡り、虫の声が響く中で竿を並べれば、子どもには発見の喜びを、大人には懐かしい記憶を思い出させてくれるはずだ。
なお、小ブナ釣りを楽しむ際には、魚への思いやりも忘れずにいたい。小さな幼魚たちは、これから大きく育っていく命そのもの。釣った魚は極力触らず、元気なうちに元いた水へと戻してあげてほしい。また、ハリのカエシを潰しておくと、魚へのダメージを最小限に抑えられる。そんな小さな配慮が、次の世代の自然を守ることにつながっていく。
特別な道具も技術も必要なし。ほんの数時間の釣りでも、親子の会話が自然に生まれ、心がしだいに満たされていく。秋の霞ヶ浦で楽しむ小ブナ釣りは、魚との出会いとともに、親子の思い出を育む時間になるだろう。
【注意事項】
霞ヶ浦周辺のハス田ではこれから年末にかけてレンコンの収穫が最盛期を迎える。農作業用の小型重機の出入りが頻繁になるので、釣り場近くに車を停める際には農作業の邪魔にならないようくれぐれも注意しよう。もちろん釣り場でのゴミのポイ捨てなども厳禁である。霞ヶ浦・北浦では湖の堤防外にあるホソでの釣りは遊漁券が不要。ただし、桜川、常陸川、新利根川など一部の流入河川で釣りする際は遊漁券が必要になる。