みなさんは茨城県の霞ヶ浦(かすみがうら)周辺で、昔から小物釣りが楽しまれていることをご存じだろうか。日本で有数の水郷地帯として知られる霞ヶ浦周辺は米やレンコン作りが盛んで、これを栽培するための田んぼとそこに水を引くための水路がいたる所にある。
小物釣りは通称「ホソ」と呼ばれる水路で行われており、地元の人だけでなく、県外からも愛好家が多く訪れる人気の釣り場となっている。
今回、筆者はおよそ9年振りに霞ヶ浦のホソで釣りを楽しんできたので、その模様をレポートする。この釣りは最初だけ経験者にアドバイスをもらえれば、未経験者でも楽しめる遊びなので、ぜひ最後まで目を通していただきたい。きっと参考になるはずである。
■まさかのポイント消滅! いきなり出鼻をくじかれる
今回、筆者が最初に向かったのは霞ヶ浦の北部に位置する、とあるホソ。実は一週間前に筆者はここを訪れており、地元の釣り人たちがたくさんの小物を釣っているのを目にしていた。
筆者は霞ヶ浦のホソでの釣りを過去に何度も経験しており、釣れる情報もいくつか知っていた。しかしそれは9年ほど前の古いものであり、現在も釣れるのかは全く分からなかった。ポイント探しに時間と労力を奪われてしまう可能性が高いので、一週間前に下見をすることにしたのだ。
車で見て回ったのは霞ヶ浦の北側半周(一周はおよそ140km)にも及んだ。そのおかげで釣れているホソをいくつか見つけることができた。備えあれば憂いなしである。
そして迎えた翌週、午前8時過ぎに最初のホソに到着。ところがだ。順調な滑り出しに安堵したのも束の間、目の前に広がるまさかの光景にしばらく動けなくなってしまった。
なんと、先週は釣り客で賑わっていたホソが、ショベルカーで掘り返された無残な姿をさらしていたのである。
付近の人に話を聞いたところ、つい数日前にショベルカーがやってきて、ホソの底に溜まっていた泥を掘り返していったそうである。ホソのすぐ手前に大量の黒い泥が盛られていた。水質が安定するまで魚の反応は期待できないだろう。ポイントが完全に消滅してしまった。
それにしてもなんというタイミングの悪さ、あまりの運の無さに苦笑いするしかなかった。
しかし、これは仕方のないこと。ホソは釣り人のためのものでなく、稲やレンコンを栽培する農家の人たちのもの。これから春に向けて本格化する農作業に備えて、田んぼの周囲を整備するのは当たり前のことである。ここは潔く諦めるしかなかった。
■次のホソでようやく魚に出会える
その後は気持ちを切り替えて、事前に目星を付けていた次なる候補のホソに向かった。幸いにもそこは先週と何も変わっておらずひと安心。さっそく釣りを開始することにした。
使用したタックルと道具は以下のとおりである。
【タックル】
・ロッド:タナゴ竿 80cmほど
・仕掛け:タナゴ釣り用のセット仕掛け(連動シモリ仕掛け)
・エサ:タナゴ用のグルテンエサ(練りエサ)
【あると便利な道具】
・折りたたみ椅子:釣り場での腰掛け用
・ビク:釣った魚を生かしておくための魚入れ
・小型アクリル水槽:釣った魚を横から観察できる
・小物用の針外し:魚に触れずに針が外せる
・タオル:濡れた手を拭くために使用
ここのホソは幅がおよそ1mで水深は30cmほど。とりあえずウキ下(ウキからハリまでの長さのこと)を20cmに設定して、葦(アシ)の際を探ってみることにした。
釣り開始直後は魚からの反応は無かったが、10分ほど待っているとウキがピクピクと動くようになってきた。どうやらグルテンエサ(ホソでの小物釣りで使用する練りエサのこと)の匂いにつられて魚たちが集まってきたようだ。
そしてその直後、勢いよくウキを沈めてハリに掛かったのは体長数センチのクチボソだった。その後はクチボソの猛攻がしばらく続いた。そして時折、本命であるタナゴ(タイリクバラタナゴ)と小ブナ(ギンブナの幼魚)も釣れた。タナゴは見た目がとても美しい人気の魚。小ブナは丸まると太って、実に愛らしい姿をしていた。
こんな小さなホソの中にいったいどれだけの魚が住んでいるのかと不思議になるほど、次から次へと魚が釣れた。濁っているため水中の様子は分からないが、もし透視できたらきっとすごいことになっているのだろう。
2月とはとても思えない暖かな陽気のなか、小さなウキを見つめながら楽しむ小物釣りのなんと心地のよいこと。実際に釣りをした人でないと、この気持ちはおそらく分からないだろう。そんなとても穏やかな時間がこの日はゆっくりと流れていた。