今年の夏は本当に暑い。40℃なんていう信じがたい数字をたびたび目にする。
そんな日にわざわざ酷暑の低山なんてと思われるかもしれないけれど、ぼくは毎年必ず暑熱順化には時間をかけて準備しているから、真夏の低山にもすっかり慣れてしまった。とはいえ、町の気温とさほど変わらないのだから、敬遠されがちなのは、もちろん理解できる。
そんなわけで、8月はちょっと標高の高いところを歩きたい。できれば、緯度も高いとなおいい。さわやかな風が吹き抜ける、だだっ広い高原が気分だ。となると、岩手県と秋田県にまたがる八幡平(はちまんたい)なんてどうだろう。周辺には名湯が多いから、下山後の日帰り温泉はハイレベルだし、盛岡に出れば冷麺とビールで旅を締めくくることもできる。最高だ。
◼️夏の大空の下、森と湿原をのんびり歩く

八幡平の平は「たい」と読む。山好きたちの愛読書のひとつ『日本百名山』を記した深田久弥によれば、山上の湿地帯を意味する「岱(たい)」と通じるそうだ。漢字の意味からひも解いてみると、岱とは中国にある道教の聖地・泰山を意味するらしい。転じて、大きな山、大きな丘という意味もある。
たしかに、八幡平は文字通り、平らかで広々とした高地だ。森に囲まれた湿原には池塘が点在しており、それらを結ぶように木道が丁寧に敷かれている。
平らかとは言ったものの、ほどよく起伏があってだだっ広いという印象。いくつかの山岳に囲まれるようにして湿原地帯が守られており、のんびりと歩く登山客を高山植物たちが出迎えてくれる。山上の楽園なのだ。

八幡平には、その中心に八幡沼という大きな沼がある。八幡沼の西側には八幡平の最高地点(標高1,613m)があり、東側には源太森(標高1,595m)というピークがある。これらをすべて繋げて歩いても2時間ほど。周辺をぐるりと一周するだけでも気持ちがいい、見晴らし抜群の散策路。暑い夏、軽めの山歩きにうってつけである。
見晴らしは、西側の最高地点よりも源太森に分がある。その名の通り、森に囲まれた山頂からは、八幡沼方面を見返すことができるのだ。なんとも雄大で、素朴な風景。ときおり吹き抜ける夏の風が心地よく、つい時を過ごしてしまう。