粉雪、凍てつく風、白く息を吐く朝。山が静かに冬へと深まる。少し前だが、初冬の北アルプス・常念岳(2,857m)へ登ってきた。稜線は雪に覆われ、表情を変えた槍ヶ岳・穂高連峰を望むためだ。
今はもっと雪深く、人を簡単には寄せ付けないだろう。初冬は厳しさの中に、どこか優しさを残す表情をしており、寒さに慣れない体だが、それでも冬の常念岳に登りたい理由があった。
■冬山への入り口、三俣登山口から常念岳へ
今回は、林道閉鎖前の三俣登山口から常念岳を目指す。なかなかの登りごたえのあるルートだ。まだ登山道に雪は少なく登山靴だけで進む。
今年は、熊の出没が異常に多いため、火薬のピストルを鳴らしたり、奇声を出したりしながら、慎重に進んでいく。猟師さんに聞いたところ、「里に下りている熊はパニックになっているんだろう」と言っていた。「山の中の熊の方が正常だ」とも……。
それでもいつも山の中では音を出して警戒はしている。大声を出していて、後ろから人に抜かれた時は恥ずかしい思いもしたりする。
■稜線へ! 視界が一気に開ける瞬間
前常念岳まで来ると、あとは楽しい稜線歩きだ。蝶ヶ岳から常念岳の稜線とその向こうに穂高連峰も見える。三角形をした常念岳と、右に視線を送るとコルには赤い常念小屋が見え、百高山の横通岳からの大天井岳までも望める。樹林帯から稜線に出る瞬間はたまらない気持ちがする。
ここからは吹き溜まりもある程度、雪が深くなった。一歩一歩雪を踏みしめながら足を運ぶと、「見えてきた! とんがりのシンボルが!」