ぼくは雨の日でも濡れることを気にせず山へと出かける。雨具のテストだったり、雨中の行動に身体を慣らすためだったりと、雨でなければできないことに目を向ける絶好のチャンスだからだ。

 しかし、そんな梅雨の晴れ間に大当たりを引くこともある。その1つが、新潟県の角田山だった。太平洋側とは異なる気候ゆえ、この時期に思いがけない晴天と絶景を楽しめる山なのだ。

■これぞ Sea to summit! 日本海ブルーに励まされる尾根道

 梅雨の季節になると、地元のホームマウンテンに足を運ぶ頻度が増える。そこには瑞々しい森があることを知っているし、土砂降りをしのぐ東屋の位置もバッチリだ。途中撤退するときのエスケープルートもよくわかっている。下山後の温泉や飲み屋の寄り道まで頭に入っている。

 とはいえ、ときには勝手知ったるホームを離れて、見知らぬ土地に行きたくなる。とくに山の予定を雨で棒に振る日が続くと、なおさらのことだろう。ああ、どこかに晴れ予報の山はないものかと、天気図を何度も眺めてはため息をつく。そんなときに、いつか登りたいとチェックしておいた地方の山の天気を気にかけてみる。もしそこが晴れるとしたら、少し遠い場所だったとしても遠征のチャンスの到来だ。

 そんな経緯で訪れた中でも、大当たりを引いたのが新潟県の角田山(かくだやま)だった。

上堰潟(うわせきがた)公園から角田山を眺める。遠くにそびえるのは弥彦山

 角田山は、新潟市西蒲区の海岸沿いにそびえる低山だ。標高は482mと低いものの、その佇まいは海から運ばれてくる強い風を防ぐ、まるで巨大な屏風のよう。山の連なりの南方へと視線を移すと、そこには新潟を代表する低山・弥彦山がある。つまり角田山は、弥彦山塊の北端に位置する山なのだ。

 遠くから山容を確かめられるビューポイントを探すのは、ぼくの職業病のひとつである。たとえば角田山なら、上堰潟(うわせきがた)公園から眺める山容が素晴らしかった。低山とはいえ堂々としているし、なにしろ上堰潟と呼ばれる人造湖に写し出される“逆さ角田”が見事。カメラを構えていると、ときおり水鳥がスーッと横切るのも嬉しい。

ビーチからスタートし、灯台を経て尾根に出る。日本海ブルーが美しい!

 登山者に人気の山だけに、登山道は東西南北に7つのコースが整備されている。それぞれに魅力があるけれど、個人的に好きなのが「灯台コース」だ。ここ、めちゃめちゃいい。

 登山口は日本海に面した角田浜の白いビーチから。登山靴でギュギュっと踏む白砂の感触は新鮮で、灯台の取り付きから登っていくのも、これまでにない感覚。これぞ Sea to summit という気分の高まりと、標高を上げていく度に広がる日本海の壮大さに、「梅雨の晴れ間よ、ありがとう」と叫びたくなる。

 途中、ゴジラの背のような露岩の尾根が現れる。ここでふり返る日本海が真っ青で、壮大。海は心が癒されるなあと感慨にふける。花の名山としても知られる低山だから、季節に合わせて“足下の絶景”に心を配る山歩きも楽しい。