まだ少しばかりの冬気分を引きずっている3月の初旬。もうちょっと雪山を楽しみたい気持ちがあるものの、いよいよ迎える春本番の低山里山に惹かれ始める時期でもある。ひとむかし前までは季節のことなどあまり気にせず、古代遺跡や戦国時代の痕跡などを求めてひたすら山を歩いていた。ところが年齢を重ねたいまは、ちょっと趣きが異なる。毎年この季節になると、花を見るために山へ足を運ぶようになったのだ。

 とくに春先なら、元気をもらえる黄色い花がぼくの気分。青空と蝋梅(ロウバイ)のコントラストに魅了された厳しい冬から、里に暖かな春を告げる福寿草やマンサクの花などが見ごろとなる。

 今月はおびただしい黄色い花に囲まれたい! ということで、数ある名所の中から低山の縦走が楽しい都留アルプスをおすすめする。ここに群生するミツマタを見て「花っていいかも!」と開眼し、毎年のように花見ハイクに訪れているコースである。

■駅から駅へ!  電車派におすすめの「アルプス縦走」

秀麗富嶽十二景の高川山(写真中央)。その奥にたなびくのは大菩薩・小金沢連嶺の山々

 本格的に春を迎える山梨で低山を歩くなら、まず東京方面からのアクセスに恵まれた大月市と都留市のあたりが狙い目だ。中央本線や富士急行線といった公共交通機関があり、どの駅にも魅力的な低山がひかえている。駅から駅へと繋ぐ山行計画が作りやすいのが魅力のエリアなのだ。マイカー派なら中央自動車道があるから、より自分好みの山へと奥深くアプローチしやすいのもグッド。

 都留アルプスは、このエリアのご当地アルプスとして名を知られる低山の連なり。最高地点は都留アルプス山、標高713mである。

 山間の狭い盆地ゆえ、地形的に山と町がとても近く、低山ならではの“迫る絶景”が目に新鮮。大月市が定める秀麗富嶽十二景の山々が暮らしの風景をぐるりと取り囲み、大菩薩・小金沢連嶺の山々を遠くに見晴らす。さらに、まだ雪をかぶった白銀の富士山も眺められる。これは人気なのも頷けるというものだ。

■見どころはフォトジェニックな富士山から

都留の町、地元の低山、そして日本を代表する富士山。なんてすばらしい眺め!

 都留アルプスを歩くなら、東桂駅からスタートして都留市駅をゴールに設定する約10kmの縦走コースがお気に入り。歩きやすいうえに見どころが多く、山に慣れ始めたハイカーから熟練の登山者までが楽しめるトレイルだ。いくつもの小さな山頂と峠を通るため、途中でエスケープがしやすい。だから、体力や目的に応じてショートコースに仕立てることもできる。

 登山道には里山風情があり、休憩しやすい開けた場所やベンチが点在する。木漏れ日の美しい雑木林を歩き、ところどころで町の様子を眺め、ときおり視線を上げると近隣の山々が広がる。長安寺山からほど近いパノラマ展望台は、都留の町並みと低山の山並みの先に富士山が構えるフォトジェニックな構図。こんな素晴らしい眺めがあるのだから、低山といえど侮れない。

 侮れないといえば、コース上には急な場所が多少あることを付け加えておきたい。そうした場所では重心を落として歩幅を狭くしながら、注意深く下りよう。トレッキングポールを持っておくと心強い。