■美しい外道たち ハス、イダ、オイカワ etc.

開始早々、下流域で友人の竿にかかったのは、まるで日本画のように色鮮やかな鱗をきらめかせた美しいハスだった。ピンクがかった胸ビレと、先端がレモンイエローの長く伸びた尻びれが幻想的で、正直ヤマメにひけを取らない美しさだった。

やがて筆者にもすぐ釣れ始め、しばらくはハスたちの入れ食い。小さなスプーンを軽く投げて、ただゆっくり巻いてくるだけで、魚たちが反応する。気難しいヤマメと違った素直な反応のよさが嬉しい。
「これはこれで、いい釣りですよね」 友人が笑った。

「釣れた! あ、でも…… イダか……」
川を釣り上がっていくと、次第にハスの姿が減り、代わりに顔を出したのはウグイ。このあたりでは“イダ”と呼ばれている魚だ。普段ならまず写真など撮らないけれど、今日は夏休みの遊び気分だ。友人が釣った小さなイダをくっくっと笑いながらランディングネットに横たえた。

この時友人が使っていたのは、ごく普通の釣り具量販店で手に入るスプーンだった。個人的には、店頭にたくさん並んでいるルアーは初心者でも使いやすく、コストパフォーマンスにも優れているものが多いように思う。
これから渓流釣りを始めようとする人は奇をてらわずに街の釣具店に並んでいるものから、気に入ったものを購入するのもいいのではないか。

それからしばらく上流へと進むとようやく、ヤマメたちが顔を見せ始めた。サイズは手のひらほどで、普段ミノーで釣っている時ならなんてことない大きさだったけど、この日はスプーンで“釣った”という満足感が筆者たちを笑顔にした。

午後に入り、上流へと進むにつれ、次第に川は荒れ模様を見せはじめた。濁りはないものの、水量がぐっと増し、足元を流れる水の勢いが明らかに強まっているのがわかる。さすがにこれ以上進むのは危険と判断し、僕らは引き返すことにした。

帰り道、空がにわかに暗くなり、小雨がパラついてきた。そのとき、友人がキャストしたスプーンに、思いもよらぬ魚が飛びついた。15㎝くらいの小さなオイカワだった。
一目見て、吸い込まれそうになる。その体はまるで緑色の濡れた宝石のように光り、雨粒が水面に波紋を広げる下で静かにキラキラ輝いていた。
「これは…… とびっきりキレイだね。」
友人とそうつぶやいた。
この日はほかにアブラハヤも釣れ、気づけば五目釣りを達成していた。
■高校時代の記憶と、今も現役のルアー

釣りからの帰路、車を運転しながらふと子どもの頃を思い出していた。
中学生の時に始めたバスフィッシング、どうしても釣れない時は小さいスプーンを投げると、子バス(バスの幼魚)が釣れて楽しむことができた。
高校生の時は毎日、授業や部活が終わると部室の奥に隠していた釣り道具をこっそり持ち出して、学校の裏を流れる川で釣りをしていた。海に近いその川で釣れたのは、スズキ、イダ、エバ(メッキ)、シマイサキ、たまにナマズが釣れたのを覚えている。
あれから40年以上の年月が過ぎ、筆者は相変わらずスプーンで釣りを楽しんでいる。今からルアーフィッシングを始める人は、ぜひスプーンも選択肢に入れて欲しい。そして、毎年訪れる夏をゆったりと楽しんでもらいたい。