■年2回の想いを繋ぐ! シーズン前後の安全活動

活動のタイミングに合わせて集まるメンバーたち。登山入り口に注意喚起の看板をつける
山頂まで救助用担架をあげる。自然の山だから全ての道具は歩いて持って上がるしかない

 「山での遭難事故を防ぐには、経験に基づいた予防策が重要です」

 そう語るのは、群馬県警察山岳捜索救助隊(山岳警備隊)で、この活動の中心となっている新井孝之さん。尾瀬や谷川岳での数々の救助活動の経験を持つ新井さんは、山岳ガイド協会の研修講師も務める山岳救助の専門家です。

 活動は年に2回、バックカントリーシーズンの始まる前と終わりに行われ、群馬の山を愛する人々が、休日を使って集まります。

雪で埋まらないような高さにロープをかけるため、木に登ることも
ロープにはさらに目印となるロープをつけて存在を知らせる
山頂のヤマトタケル像の後ろにロープを含む救助用担架を取り付ける

 「この活動を始めてから、道迷いによる遭難事故は激減しました」

 活動が始まって以来、遭難事故はわずか1件まで減少したという実績は、この活動の重要性を物語っています。シーズン前のロープ設置と、終わりの回収。その単純な作業の繰り返しが、確実に命を守り続けてきました。

■「この景色をずっと楽しんでほしい」 山好きたちの願い

前武尊から望む雪景色。この感動を安全に共有したいという思いが活動を支えている

 「山に入るすべての人が、無事に下山できるように」

 このロープには、そんな優しい願いが込められています。自然は美しく、時に厳しいものです。だからこそ、その魅力を知る人たちは、より多くの人々に安全に山を楽しんでほしいと願っています。

 バックカントリーは、自己責任が原則の山岳活動です。しかし、その中でも防げる事故があるはずだという信念が、この活動を支えています。茶色いロープと矢印看板は、山を愛する人々からの静かなメッセージです。「あなたにも、この景色をずっと楽しんでほしい」という想いが、確かな形となって、今日も冬の前武尊に伸びています。