1月下旬、一週間ほど降雪もなく暖かく春めいた日が続いていました。前夜、里に降ったわずかな雪。少し標高を上げれば、パウダースノーに出会えるかもしれません。「これならラッセルも少なく、それでいて快適なツリーランが楽しめるかも」
訪れる人が少なく、静かな時間を過ごせるので気に入っているのが新潟県糸魚川市にある「一難場山(いちなんばやま)」です。しばらく登っていなかったのですが、ちょうど知人ガイドの下見に付き合うことになって、案内がてらバックカントリースキーをしに訪れてみました。
■穴場的なバックカントリールート、一難場山へ
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糸魚川市と小谷村の境界にある蒲原山から北に連なる尾根上にある一難場山は、標高1,518m。広いオープンバーンやエキサイティングな急斜面こそないですが、安心して滑ることができる適度な斜度と、間隔の空いたブナのツリーランが楽しめる場所です。
「木地屋(きじや)」集落の除雪の終点からしばらくは林道を辿ります。ここは山スキールートとして古くから親しまれている「蓮華温泉」へと続く道でもあります。うっすらと残ったトラック(登高や滑走の跡)、かろうじてパウダースノーと呼んでよさそうな雪がうっすらと覆っていました。
※降雪後は除雪が入ります。木地屋の集落までは狭い山道です。作業の邪魔にならないように配慮が必要です。
標高790mあたりから林道を外れ、急な斜面を一段登ると「杉ノ平」です。
■美しいブナの森、杉ノ平では渡渉ポイントをうまく見つけて
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その名のとおり、平らな杉ノ平。着雪した美しい森のなか、シールが音を立てながら快適に走ります。木地屋川を横断する必要があるのですが、水量は少なくどこでも渡れそうです。しかし、両岸にこんもりと積もった雪の壁は降りるのも登るのも手強いので、渡渉は避けたいところ。870m付近にうまく雪が繋がっている場所があり、そのスノーブリッジを渡りました。
その先は地形図には記されていない、わずかな沢地形に沿うように南東方向へ。標高900mほどで、ようやくメインの斜面に取りつきました。急な角度での登高にならないよう、遠回りでもなるべく傾斜が緩くなるように少しずつ標高を上げていきます。
■太いブナの巨木たち、ガスに煙る神秘的な森
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ブナの森は枝先まで雪に覆われており、白く繊細に織りなされたガラス細工のよう。息を呑むほど美しい光景が続きます。ときおり、頭上からはらはらと舞い落ちてくる雪も風情があります。気がつくと、幹が太く枝ぶりの立派な木が目立つようになってきました。新雪の量も増え、雪質も良くなってきています。今回は登高ラインと同じ斜面を滑る予定ですが、これなら快適な滑走が楽しめそう!
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山頂部に近づくにつれ、ガスに覆われてきました。乳白色に滲む森の景色は幻想的です。やがて霧氷の奥に白い雪面が広がる主稜線に出て、ザックを下ろしました。ここからは稜線を辿って、山頂まではあと少しです。雪がちらほらと降り出していました。夜にはまとまった降雪の予報が出ています。
視界が悪く、このまま山頂を目指してもリスクが増えるため、ここで下山(滑走)することにしました。晴れていれば、屏風のように連なる雪庇(せっぴ)沿いに、この位置からならではの雪倉岳や朝日岳、頸城の山々の眺めが素晴らしいのですが、それはまたの機会に……。