■瞬時にカニをさばく一流料理人の腕
そのチュウシャクシギが、干潟にやって来ているのを見つけました。彼らの好物はカニ。潮が引いて浅くなってきた水際で静かにたたずんでいるかと思いきや、水の中に自慢の嘴を突っ込んだ次の瞬間には、その先に、大きなカニが捕らえられていました。電光石火の早ワザです。カニは、独特な形をしたハサミから、汽水域に生息するヤマトオサガニではないかと思われます。
チュウシャクシギは、すぐにそのハサミを咥えて大きく振り回します。すると、あっけなく片方のハサミがもがれてしまいました。
チュウシャクシギの「カニの解体ショー」は、とにかく手際がよく、もう一方のハサミも簡単にポッキリ折ってしまいます。空中に飛ぶカニやその足を見ていると、カニの絶叫が聞こえてきそうです。サスペンスドラマの「バラバラ○○事件」の発生現場とでも思えそうな状況でした。
それにしても、超一流の干潟の料理人の腕は見事というしかありません。あの長くて湾曲した嘴は、まさにカニ料理のために進化してきたとしか思えないスペシャルな道具です。カニは、手足をもがれてしまうと、もうなす術もありません。
ハサミや足などの硬くて余分な部分を全て落とし、丸々とした甲羅だけになったカニを、チュウシャクシギはおいしそうに口の中に放り込みました。この間、わずか1分足らず。これほど腕利きの板前さんなら、どこの海鮮料理店でも重宝されることでしょう。
春の干潟では、潮干狩りの際にシギやチドリたちの料理ショーを見ることができるかもしれません。日本の干潟では、このようなダイナミックな営みがあちらこちらで行われています。私たち人間と野鳥たちで、貴重な干潟や砂浜をいつまでも大切に共有していきたいものです。