■その5. 聖岳のおねだりオコジョ

 ある年のお盆を利用し南アルプスの聖沢から聖岳に登った。樹林帯で休憩しようと腰を下ろすと、チチと声を上げながら足元をチョロチョロ動き回る動物がやってきた。よく見てみるとオコジョだ。ずっと足元付近で動き回って離れない。

 自分の可愛さを知っているのか、おねだりするように潤んだ瞳で見つめてきた。あまりにも可愛らしい姿につい褒美を渡しそうになったが、野生動物にエサは禁物。可愛い姿に御礼を言ってその場を立ち去った。

 あやしいダンスを踊り捕食するという、恐るべき肉食動物オコジョ。いつか会いたいと思っていた動物であったが、用心深いからか今までオコジョを見ることはなかった。

聖岳山頂から兎岳を眺める

■その6. 長野県鍋倉山でよりそってくれたカモシカ

残雪の中を歩くカモシカ

 残雪の鍋倉山でどうしても撮影したい木があり、青空とブナの新芽が揃う日を夢見て何度も入山。

 この日は5時間高速道路を運転し、朝6時、雪解け水が流れる沢の上で空腹を感じ、おにぎりを買わずに入山してしまったことに気づいた。

 非常食用のカロリーメイトを食べていると、なんだか右肩と頭が温かい。振り返ると毛皮。なんとカモシカが寄り添っているではないか。

 思わず立ち上がると、カモシカはつまらなそうな顔で斜面を登りだした。筆者も慌てて後を追った。カモシカはゆっくり歩いているように見えるが速い。

 カモシカはカロリーメイトが欲しかったのだろうか。ぴったりと寄り添っていたカモシカの温もり。頬に触れたごわごわとした毛。筆者がカモシカに最接近した大切な思い出だ。

カモシカと登った鍋倉山の急斜面

■自然を大切に、これからも野生動物との出会いを楽しむ

 山に入りじっとしていると、動物の存在に気づくことが多い。そのとき、全ての自然の中で生き抜く動物や生物は、みな同じ日本という国で暮らすもの同士なのだと、しみじみ感じる。

 しかし、その動物や生物が住処としている豊富な自然が年々減少していることも、また事実。ゴミのポイ捨てや踏み荒らし、動植物の持ち去りなどせず、自然を大事にして、今後も可愛らしい動物たちと会う時間を楽しみにしたい。