10月に入り、朝晩が冷え込むようになってきた。日中も涼しくなり、登山には最適な季節である。
今回訪れたのは、登山初心者からベテランまで楽しめる低山として人気の、兵庫県多可郡多可町の笠形山(かさがたやま・標高939m)。笠形山千ヶ峰県立自然公園に位置し、関西百名山、近畿百名山、ふるさと兵庫50山の一つに選ばれている。
播磨富士(はりまふじ)とも呼ばれる笠形山の名前の由来は、女性の被る菅笠(すげがさ)に似ている美しい山容だから。どこから見ると菅笠のように見えるのか探してみたが、笠形神社登山口付近からが一番それに近い山容に思えた。
笠形山の登山ルートはいくつかある。その中で筆者が選んだ天邪鬼・名水コース(林道笠形線笠形山登山口駅登山口ルート)は、距離は一番短いが、最初から最後まで急傾斜が続く筋肉痛必至のルートだ。ただこの行程には沢沿いのガレ場や鎖場など変化に富んでおり、天邪鬼伝説が残るスポットや写真映えする場所も満載である。
■笠形山登山口駅登山口から笠形山へ
標高約530mの笠形山登山口駅登山口は、林道笠形線という舗装林道沿いにある。登山口に駐車場はないが道幅があるため、乗り降り可能。ただし、ときどき車やバイクが通過するため、迷惑にならないよう注意が必要だ。
登山口から山頂までは約1時間30分程度。登山道は最初から最後まで急傾斜が続く。また「熊に注意」の看板もあるので、クマ除けの鈴やラジオなど、音が出るものを携帯しよう。筆者はクマ除けのため、いつもAmazonオーディブルで本の朗読をスマホから流しながら山に入る。
登山道は最初、沢沿いのガレ場を進む。何度か沢を渡るので、滑らないように気をつけよう。
ガレ場の終点に、「天邪鬼(あまんじゃく)の力水」という水場がある。天邪鬼とは、笠形山に残る天邪鬼伝説の主人公。笠形山に住んでいた天邪鬼が、向かいの妙見山に橋を架けようとしたが、失敗したという内容だ。そして、天邪鬼の力水は架橋工事の際、天邪鬼が水分補給をしていた場所だと伝えられている。天邪鬼の力水は生水で飲んではいけないが、持って帰りコーヒーを淹れたらおいしかった。
天邪鬼の力水を過ぎると、登山道の傾斜はさらにきつくなる。途中、多可町のキャッチコピー「多可の天空を歩く」の看板。尾根まで上がっても急傾斜は続き、「龍の背」と呼ばれるスポットに到着。ここは痩せ尾根に岩が並んでいる独特な風景だ。
龍の背を過ぎると、岩の隙間を抜ける鎖場が現れる。岩の隙間はかなり細いため、中年太りの筆者は挟まってしまい、少々難儀した。スリムな人は心配無用だ。
さらに進むと、「天邪鬼が架橋に失敗した跡」が現れる。ここにあるのは、橋桁と言われる柱状の岩や案内板。また、橋の材料として天邪鬼が準備したという板状の岩も散乱する。このスポットは、登山ルートの中でも一番眺望がよかった。
天邪鬼が架橋に失敗した跡を過ぎると、徐々に木が少なくなり眺望が開けてきて山頂が見え始める。
笠形山の山頂は眺望がよい。こじんまりとした山頂だが、居心地がよくついつい長居してしまう。山頂には木製と金属製の東屋がある。木製の東屋は風情があり、金属製の東屋は開放的。
山頂からは瀬戸内海が遠望できる。コンディションがよいと四国や和歌山まで見えるらしいが、残念ながらこの日は見えなかった。
なお、山頂で休憩しているとスズメバチが出現。どこへ逃げてもしばらく付きまとわれた。この季節はハチに遭遇することが多い。クマだけでなく、ハチにも注意が必要だ。
また、下山は登りとは逆に急な下りである。勢いあまって転げ落ちる恐れもあるため、ゆっくり下りなければならない。