日本には北海道に生息するヒグマと、本州と四国に生息するツキノワグマの2種類のクマが生息する。本来クマは植物食性に傾いた雑食だが、数年に一度訪れるブナの実の不作年、食糧難でお腹をすかせ人里に出てしまうことがある。その際、人間に驚き人的被害を与え、見つけた場合にはほとんどが駆除されてしまうという、人間にとってもクマにとっても悲惨な事件が頻発している。

 市街地など、人間の生活するエリアにクマが現れれば駆除となるが、登山などで自然豊かなエリアに人間が出向く場合は、人間もクマも同じ「いきもの」だ。

 本記事では、筆者が登山中に遭遇した動物達のエピソードを、目撃場所と時間帯を含め6つ紹介する。動物達との出会いを楽しんだり、出会わないように注意いただく参考にしてほしい。

 ちなみにクマに出合ったら、「大声で騒ぐ」「後ろ向きでダッシュする」は絶対にNG! そっと後ずさりして距離をとるか、クマが目の前で攻撃体制に入ったら、顔や頭をひっかきすぐに逃走することが多いといわれている。頭を手で保護しうつ伏せになり、攻撃を最小限に食い止めよう。

参考URL:クマ類の出没マニュアル(クマ類に遭遇した際にとるべき対応)

■その1. 尾瀬の草原でくつろぐクマ

 ある年の7月20日、梅雨明け間近に福島県桧枝岐村にある尾瀬への玄関口である「御池(みいけ)」から入山したときのこと。30分ほど歩くと美しい湿原と池塘(ちとう)観察用の広場があるが、そこに置かれたベンチの脇でクマは美しい尾瀬の風景に溶け込むようにちょこんと座っていた。

 池塘とワタスゲ(高山植物の一種)とクマ。すばらしい光景をうっとり眺めていると、すぐ目の前のクマの存在に気づかない同行者が、どんどん先を歩いて行くではないか。「クマがいるので戻って」と小さく声をかけると、同行者は大声で「クマだ!  クマだ!」と騒いでしまった。

 大声にびっくりしたクマは走りだし、逃げようと森の入口を探して右往左往。木道の先にある森の入口に少し入ったと思ったら再び戻って来ると、5秒も経たないうちにその登山道から登山者が現れた。

 人に驚きよけながら、クマは再び登山道の森の入口へと消えていった。

池塘(ちとう)観察用の広場で右往左往するクマ。尾瀬上田代にて

■その2. 北アルプス白馬八方尾根のファイティング雷鳥

雷鳥に遭遇した日の八方尾根から見た、五竜岳と鹿島槍ヶ岳

 ある年の6月中旬、白馬八方尾根をゴンドラで昇り、唐松岳へ向かった。夕方前に唐松岳頂上山荘に着けばよいため、ゆっくり残雪の山々を堪能した。日が傾きはじめた15時あたりのこと、目の前の尾根に目をやると土煙が立っていた。

 雷鳥の叫ぶ「ぶぃー」という声と、盛大にぶつかり散る羽。雷鳥の喧嘩だ。喧嘩を止めるべく完全におじゃまな筆者が1mまで近づくとさすがに喧嘩はやめたが、どちらも逃げずそっぽを向きじっとしていた。

 ちょうどペアリングの時期で交尾かと思ったが、どちらもオスようだ。お気に入りの場所を取り合う縄張り争いだったのかもしれない。

 鳥とはいえ雷鳥の体重は約400~600gというから、小ぶりのニワトリと同じ。なかなかの迫力であった。

他の雷鳥と喧嘩中で逃げない、白馬八方尾根オスの雷鳥
白馬八方尾根で喧嘩していたもう一方のオスの雷鳥