■腕前と“あしまえ”に合わせて

 釣り全般に言えることですが、渓流釣りは魚影の濃さやスレ具合によって難易度が大きく変わり、それが魅力でもあります。案内する相手の腕前に合わせて楽しめる川やポイントを選ぶことが大事です。今回紹介したのは、キャスティングやドリフトがやや難しく、魚の着いている位置が正確にわからないと釣果に繋げにくい場所です。魚影こそ薄いのですが、出れば大物、釣り応えのある良型が期待できます。

対岸のピンスポットで掛け、流心に入って走る魚と一緒に下流へ下って見事にキャッチ

 小林さんは去年案内した時より、ずいぶんと上達していました。最初の大場所こそ無反応に終わりましたが、「そこも試してみたら」と思うポイントを手早く探り、ファーストフィッシュは見事な泣き尺(約30cmにわずかに届かないサイズ)。さらに続いて釣り上げたのは、見事な尺上(しゃくがみ)のイワナでした。

 自然相手のアクティビティ、渓流には危険が多く潜んでいます。相手の遡行技量、安全意識などに合った川、ポイントを選択することも重要です。

 小林さんは甲子園出場経験もある元甲子園球児。年齢も僕より10歳若いですし、スキースノーボードを精力的に嗜んでいるので足腰の強さは問題ないでしょう。不安はありません。魚以外、鳥や水生昆虫などの川辺の生き物に夢中になっているふりをしつつも、そっと行動を見守りながら遡行していきます。

■一歩引いて譲る精神!

 以前、釣り場を案内してくれた方が、「案内する時は、相手に釣って楽しんでもらうのが第一。自分は二の次」と教えてくれました。その時、初めての場所なのに本当に楽しく釣りができました。さらに、知っている場所だからといって、あまりアドバイスしすぎるのも鬱陶しいので、気をつけないといけないと思っています。適度な距離感で、ロッドが曲がっているところや魚を取り込む瞬間など、自分で撮れないようなシーンを撮って差し上げるのもいいでしょう。

尺には届きませんでしたが、貫禄のあるヤマメ! 羨ましい……

 そうこうしている間に、彼はまたロッドを曲げています。今度はヤマメです。しかも尺にわずかに届かない、体高のあるいいヤマメ。風貌に貫禄がありました。「お疲れさまでした! そろそろ帰っていいんじゃないですか?」と、思わず口に出ます。さらに見ているとチェイスやショートバイトを連発しています。

■こちらも楽しむ精神!

 もう十分に楽しんでいるようなので、いよいよ僕も本気で釣りモードへ。「変に気を遣いすぎるのも、居心地悪いはず」心の中で言い訳し、先行しながら釣り上がりますが、こちらの(ウェット)フライには全く反応がありません。

 振り返ると小林さんのロッドがしなっています。「またですか〜?」惜しくも、流心をまたぐ瞬間に華麗なジャンプと共にフックアウト。先ほどのヤマメより一回り大きい、見事なヤマメでした。

筆者がフライで釣ったイワナ。面目躍如の一本!

 正直、羨ましい。しかも、僕が散々叩いた(フライを流した)場所から出していたのです。「(その)ルアー、すごいですね〜」と、内心穏やかではありません。僕はポイントを熟知しているので、手前は軽く流して譲るフリをしながら、その先の有望な筋を目指しました。するとほぼ足元でヒット! 野生味と上品さを合わせ持った太いイワナ32cm! 極力落ち着いた振りをしつつ、丁重にネットに招き入れました。今日イチのサイズ(普段、サイズは大事じゃないって言っている)に面目躍如、溜飲を下げることができました。

 見せつけてやろうと思ったら、彼も下流(ここも僕が先に流し済み)で魚を取り込もうとしていました……。